鬼/みぎめ ひだりめ
ココナッツミルクの香りがする
まるい真珠のような指先を
おれの しわがれた手が抱いている
息を吸うたびに埃が肺をすえてしまって
こひゅー、こひゅー、と鳴り続けている
おれの くぼんだ双眸が
おまえには鬼火に見えているか
垂れた布を巻いている
あたたかな乳白色の やわらかな手触りの
そのうちに蠢くぬるく脈づくいのちの熱に
おれは夜が泡立つほど溶けている
伸びやって歪んだ角先が
反りかえって喉を突き刺した
暗光にきらめく古い電音機のメロディが
すこしだけ すこしだけ おれを慰めている
胚がついに落ちようとしている
かすれた文字の一粒一粒を
おれは口に含んでは吐き捨てている
土に埋もれたそれは黒玉(ジェット)のように
煤けながらも芽吹こうとする
息を吸うたびに火種が跳ねて
視界一面に紫炎がはじけた
ココナッツミルクの香りがする
剥き出しの真珠のような指骨を
おれの 煤けた手が包んでいる
息を吸うとえずいてしまって
引き攣った唇が虫のように震えている
おれの おれの 双眸が
おまえに見えているか
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