ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
んだ」
「ロミオ、誰なのその女性は? 私はジュリエットよ!」
「ああ! アニータ! 50円玉はつかわれている。たいてい使われている! ああ! だが、これはなんという、こそばゆい多幸感! とっぴょうしもないサザンカ! 痛みなき世界! トウスイ……陶酔……」
黒猫が、「どうなることやらね」と天使につぶやく。
「どうなりもしないさ、すぐ捨てられるに決まってる」と、天使は答えた。
「いや、わからんよ。みな」
天使の目に映ったのは、ベンチに腰かけ長々とキスをしている、気を許しあった凛と多義子の姿。
「この俺の目に狂いがあったためしはなかったんだが……」
と、天使はパタパタと黒猫を路上に残して、空の高みにのぼっていった。この世もまんざら捨てたものではないな、という思いを胸に抱いて。
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