陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
山頂に向かって無言で歩く。
 ようやく山頂に立った時、陽子が太郎の目を見つめてきっぱりと言った。
「太郎、あたしね、あたし、来年、絶対、教員採用試験通るからね。約束する、絶対通るって。合格祝い予約したからね。今度はこの前よりうまく泣けるようにするから、太郎、胸空けておいて、判った?」
 胸に飛び込んできた陽子を、太郎はそっと抱きしめた。
 太陽が昇ってきた。
 朝日の中に一つになった二人のシルエットがあった。 

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