全行引用による自伝詩。 05/田中宏輔2
彼女はまずそう言った。
「いや、沈黙というものは、そのまわりにある言葉によってしか存在しないものなんですよ、イレーヌ。人生はすべてそういうものですよ……僕たちの人生のどんな瞬間であろうと、僕たちのなかには、発散されることを必要とする力があるものなんです」、彼は勢いこんでそう話しつづけた、「どんな欲求でも、もしそれに逆らうものがあれば、とてつもない強さにまで高まるかもしれない」
「分ってますわ」と彼女は言った、「水を飲みたいとか、道を歩きたいとか、裸になりたいとかいう欲求ね……」
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』9、菅野昭正訳)
人はなぜ本を書いたり、絵を描いたり、歌をうたったりする
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