においかえる/ただのみきや
 
静寂(しじま)の雨にうつむいて
秋の草葉は色もほのかに

時遠く
こころは近く
忍ぶ素足のよう
匂いは
声よりそばに立ち

箪笥の抽斗を引いた時
古い香水瓶
   ではなく
 白木の小箱の中
匂い袋と
焼けた銭

骨を箸で拾おうとして
つぎつぎ崩れ灰になる中
現れた
黒い釣り針
窯の中から聞こえていた
蝶々みたいなハミング

静寂の雨に目をつむり
夏の光に想いを馳せる
秋の草葉へ 
   わたしもまた 
両のまなこをそっと置き
 土から還るひとを想う


          (2025年10月18日)







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