五感と彼女たちの泡沫1/泡沫の僕
僕は病的に他人と自分を貶め、
どこにも価値がないと言いたくなるような人間だ。
けれど、それを社会で態々態度に出すほど愚かではない。
だから、仕事を終えたあとはアルコール以外に逃げる手段がない。
度数の高い缶チューハイをいくつも買って帰る。
ツマミを用意する意味もなく、ただ酒を呷るだけだ。
スモークサーモンに文句をつける君の、挑発的な笑顔はもうない。
SHARPのワンビットデジタルにMDを飲み込ませ、
50’sのDoo-wopを流す。
僕が儀式的に行うのは、ザ・ロネッツの《Be My Baby》を口ずさみ、
君のハミングを掻き消すことだ。
僕はコーラスする。「僕だけのものになってほしいのに」って。
「それが間違ってるのに…」って彼女の言葉が聴こえて、
思わず「知ってるよ!」と叫んだ。
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