五感と彼女たちの泡沫2/泡沫の僕
ふらつく頭以外に何も無い夜には、
輪郭の断片だけをなぞって、美しい記憶を思い起こそうとする。
自分の薄くなってうねった髪をかき上げれば、
君の柔らかで豊潤な髪を思い出してしまう。
別の妄想に逃げようとしてベットに寝そべれば、
痺れない左腕を思い出す。
グルグルと頭と意識を変えながら、
何とか逃れようとする僕の鼻に、
階下からあの煙草の臭いが流れてきて、
僕は子供の頃にしたように、
毛布を頭まで被って現実から逃げ出した。
だから、翌朝、植木市に出向いて檸檬の木を買った。
植物は何も言わず、勝手に育つか、勝手に枯れる。
そいつの生き死になんか、僕の知ったことでは無い。
そう思っていた檸檬の木に、ナミアゲハが来て、タマゴを産み付けて行った。
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