北野坂の白昼夢/花野誉
久しぶりの神戸
妹と二人で往く
生田神社は朝から多くの参拝者
ほっそり引き締まった狛犬を眺め
お詣りしてから坂を上る
異人館通りを右に曲がって
ハンター坂を横切り
賑わう北野坂へ
お目当てはコウベキルト
地下のライブハウス
またしても
一瞬で時が過ぎた
狭い空間の隅々まで満ちて
降ってくるような歌声に包まれ
音源を超える声の熱に
こめかみが痺れ 鳥肌が立ち続ける
湿った地下の空気を押し分けるように
地下から這い出ると目の前
お洒落な通り
行き交う観光客
明るい日差し
軽い目眩
まるで白昼夢を見たよう──
耳に残る残響と
ポケットに残る半券
夢ではない
それでも
この冷めない余韻に
まだ夢の中にいるよう
スマホを覗いていた妹が
「ドジャースが勝ったって!」
覚めやらぬ
夢ではない夢から
またたく間に
現実へ引き戻された
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