全行引用による自伝詩。 08/田中宏輔2
 
れたが、彼は老人の、物ごとをよく見る、悠揚(ゆうよう)迫らない態度で、子供たちの叫び声やスズメのチッチッいうさえずりや、恋人たちの優しい手のからみ合いなど、生活のさまざまな要素をいっしょに味わいながら、夕暮れの散歩を楽しんでいた。彼は過去の日々にやったように、人間生活の本流にひたっていたのだ。そして年月を経る間に、夜の逃亡者のように突然、音もなく姿を消して行ったあの親しい人びとの跡を埋め合わせるものを、何がしかそこから得ていたのだ。
(エリック・F・ラッセル『追伸』峯岸 久訳)

「(…)これじゃ台所の雑巾にも劣り、汚れた脱脂綿にも劣る。実際、ぼくがぼく自身と何の関係もないじゃないか」それゆ
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