全行引用による自伝詩。 08/田中宏輔2
めたきりで、決して目を上げなかった。息をすると痛みを感じるので、撃たれたのはぼくかもしれないと思った。でもそうじゃない。そうじゃないんだ。キャスリンの脚が部屋に入ってくると、床板が少したわんだ。キャビイの脚が続いた。
(キム・スタンリー・ロビンスン『荒れた岸辺』下巻・第四部・20、大西 憲訳)
ポーターがわたしの旅行鞄を持ち、ゆるくカーブを描いている幅広い階段を先導して上の階へ向かった。鏡やシャンデリアで飾られ、階段には豪華な絨毯が敷かれており、漆喰製の天井の蛇腹には金メッキが施されている。だが、鏡は磨かれておらず、絨毯はすり切れ、メッキは禿げかけていた。階段をのぼる、耳に聞こえないほど
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