透明なものの返し方/やまうちあつし
 
透明ランナーを知っている?

子供のころ
少人数で野球などしていて
自分の代わりに出塁させた
目には見えない分身のことだ

ヒットが出れば揚々と走塁し
そうでなければ残念そうに
こちらへと駆け寄ってくる

自分の分身だから遠慮なく
毎日のように気軽に呼び出し
暗くなるまで遊んだものだ

その透明ランナーが
大人になってからも傍を離れない

きっかけはある日の
職場の飲み会の帰り道
デンシンバシラのかげに
子供くらいの人影がいる

半ズボンにハイソックス
小脇にはシールや
キン消しの入った箱を抱えて

はじめはギョッとしたけれど
すぐに思い出す
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