透明なものの返し方/やまうちあつし
 
出す

子供のころのわたしと
まったく同じ姿だ

手招きすると
うれしそうに駆け寄ってくる

懐かしさのあまり
思わず声を

あの頃のままだね
ずいぶん時間が経ったのに
ずっと近くにいたのかい

むかしのわたしは
何を気にすることもなく
目を輝かせてこちらを見つめる

つぎはなにをかわる?

この期に及んで
透明なまま

わたしは思わず天を仰いだ

今のわたしには
代ってもらえるものなどない

身長も体重も倍に近いし
昔のように走れもしない

そして何より
汚れつちまつて
こんな色したシャツまで着ている

いっしょにいても
もはや遊んでやれないだろう

誰か知らないか

透明なものの返し方

そもそも何処へ?
帰る場所などあるのだろうか

年老いた父母のところか
あの日遊んだ公園か

子供時代の
透明な影を引き連れて
これからずっと
暮らしてゆくのは

苦しいし
いたたまれない

そして何より

迷惑だ

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