やがて蝶になるはずの/凍湖
 
小学生のころ教室でモンシロ蝶の幼虫を育ててた
クラスメイト全員に与えられた翡翠色のいもむし
そっと指の腹で撫でたり
キャベツの葉をあげて
毎日見守っていた

やがて蝶になるはずのその虫のかたちが
蛹のなかでなくなったのをうっすら透ける膜ごしに見た
この原始のドロドロから蝶のかたちになるのか、と
何日も何日も待ったが
蛹は茶色く萎びてしまい
ついぞ蝶が出てくることはなかった

大人になるためには
子どものときのかたちを喪ってしまう
その不可逆な変化の途上で
止まってしまったものの末路を
そのときにまざまざと目撃したのだった


やがて第二次性徴が訪れて
大人たちは赤飯を炊いた
わたしのかたちがなくなっていく
子のままでよかったのにとこぼす
心を置き去りにして

受け入れられないかたちを持て余す月日に
茶色く萎びた蛹が浮かんだ

大人になって
わたしはわたしのからだの
余計なものを毟った
蝶にはなれなかったが
繭を出て
喪ったものの一端をやっと掴んだのだった
戻る   Point(5)