やがて蝶になるはずの/凍湖
小学生のころ教室でモンシロ蝶の幼虫を育ててた
クラスメイト全員に与えられた翡翠色のいもむし
そっと指の腹で撫でたり
キャベツの葉をあげて
毎日見守っていた
やがて蝶になるはずのその虫のかたちが
蛹のなかでなくなったのをうっすら透ける膜ごしに見た
この原始のドロドロから蝶のかたちになるのか、と
何日も何日も待ったが
蛹は茶色く萎びてしまい
ついぞ蝶が出てくることはなかった
大人になるためには
子どものときのかたちを喪ってしまう
その不可逆な変化の途上で
止まってしまったものの末路を
そのときにまざまざと目撃したのだった
やがて第二次性徴が訪れて
大人たちは赤飯を炊いた
わたしのかたちがなくなっていく
子のままでよかったのにとこぼす
心を置き去りにして
受け入れられないかたちを持て余す月日に
茶色く萎びた蛹が浮かんだ
大人になって
わたしはわたしのからだの
余計なものを毟った
蝶にはなれなかったが
繭を出て
喪ったものの一端をやっと掴んだのだった
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