夕陽へ向かう電車の中、女の手を見ていた。

窓際に座る、若い女の手だった。

「今さっき月を砕いてきたの」と手は語った。

それほど、白く、強く、内側から光っていた。

青い血管は、空 ....
少女は対峙していた。
言い及ばぬ甘美な不安が、彼女の足指を落ち着かせなかった。
少女の唇は、危いほど紅く、まだ嵐を知らない。
薄皮を噛み、めくれば、その痛覚の下、求めるように血は滲む。
発せら ....
来る日も
来る日も
最前線の風に吹かれながら
じっとそこに居続ける者あり
笑われても
罵られても
渇ききった砂塵を噛みしばきながら
じっとそこに立ち続ける者あり

戦っている風でも
 ....
前のワゴン車が35回目のブレーキを踏んだ
そのうちの24回は自分を守るために踏んで
残りは、修理費と野良犬のために踏んだ
「ア・イ・シ・テ・ル」のサインなら7回分だ
愛するよりも死んだり殺した ....
私は何も持ちません
私は何も知りません
何にも期待をしなければ
誰かに期待されるを望みません
鮮やかな生活も
充足に値する為事も
一切の余分を欲しません
たった一つだけ
嘘はつかず、ご ....
みんなが寝静まったので
何もかも忘れてしまった僕は
いつものように、夜のタマネギを剥き始めた。
一枚剥くと
最後まで剥き終われば何かを思い出すはずだ、ということを思い出した。
もう一枚剥くと ....
魚の骨が刺さったような顔
青く鋭い涼秋の憂鬱
仮面はかってに動き出して
僕は知らない女と饒舌になった

保健室のガーゼみたいなウイスキー
茶色く廻る酒場の喧騒
仮面は鍵を奪い去って
僕 ....
僕たちはどうせ鮫なので
誰かを傷つけずにはいられぬのです
生まれたての赤子の弱さを嗅ぎつけて
群れからはぐれた小魚を追いまわして
この鋭い歯牙で貫かざるを得ないのです
そこに滴る黒い血を
 ....
ピエロ。
僕はピエロ。
みんなに笑顔をあげるのが仕事。
真面目すぎる心を、隠し通すのが仕事。

とあるミステリにはトリックが必要なように
とあるファンタジーにはドラゴンが必要なように
カ ....
色とりどりのラムネをほお張りながら
女は滑走路へと躍り出た
スラム街からの歓声は絶えず
雲はだるそうにぶらさがった
女は脱皮をはじめ
鈍く傷ついた鱗をひるがえす
天涯に門はそびえ
処刑台 ....
雪が溶ける
綿毛が飛ぶ
坂を登れば
花が歌う

雨がやむ
少年は走る
浴衣も舞えば
花火が繋ぐ

雲が消える
柿が香る
祖母を想えば
紅葉が照れる

銀色に光る
地面が ....
困窮と退屈のはざまに
気高き朝を見つけたならば
それはもう、入り口である


その朝を慎重に迎え入れ
ささやかな疲れを知るならば
それはもう、幸せである


ひび割れた手をかばい
 ....
真っ昼間は絶望的な広がりと
胸くそ悪い光の匂いで
私を牢屋に閉じ込める
『生きるとは呼吸することではないよ』
というルソーおじさんの鎖は揺るがず
うつろな目とカビだらけの世界で私は作業を続け ....
そうかそうか苦しいか
泥を跳ね上げ
怒り嘶(いなな)き
心臓を吐き出すのは

そうかそうか絶望か
荒野で一匹
ぽつねんと
狂うことにも疲れ果て
砂塵に吹かれて
脚を折るのは

 ....
ストーリーテラー(14)
タイトル カテゴリ Point 日付
自由詩2+14/3/3 23:31
何でもない夕暮れ自由詩214/2/5 22:03
勇者自由詩213/10/14 21:09
断片的帰路自由詩213/10/12 20:06
心構え自由詩213/9/27 22:16
夜のタマネギと砂の城自由詩213/9/25 23:54
仮面とドクロ自由詩113/9/6 23:02
自由詩213/9/5 21:53
ピエロ自由詩113/9/4 22:26
ヘブン自由詩113/9/3 20:52
めぐるもの自由詩313/9/2 23:05
樵と夏の終わり自由詩413/8/27 19:36
宝箱自由詩113/8/26 19:03
暴れ馬には腐った自由を自由詩413/8/25 22:25

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