* * * * * * *
灰色の部屋の中で ボールペンが、白い紙を見つめたまま下を向いている
公園では 樹々が空に向かって上を見上げている
夏が もうすぐそこに落下する
* ....
季節はいつの間にか
窓の景色として生まれて来る
わたしは、
季節を食べることもできる
触れることもできるし
ときには、憎むことさえできるのに
馬車のように疾走る季節を
掴ま ....
生みの親たちと暮らした四歳の頃 そこに火と薪があった。
生贄の仔羊の姿は わたしには何処にも見当たらず
何も知らないわたしは両親の踊りを、ただ見ていた
何を与えられても、低く笑うしかなかった ....
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掌のうちに、唇の奥に、自分を殺したきみ、ぐしゃぐしゃになって、ギイギイと揺れ始めてからもずっと……、ずっと、ずっと、沸き起こる渦のなかを飛行するわたし、刻と刻を繋いでいく刺の先にだけ在る ....
*
・・・・・・・、・・・・・・・、・・・・
・・・・、・・・・・。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・、・・
いいえ 堕ちたのは君たちです
堕ちてしまったから脳を損傷したので ....
赤き太陽虫よ どこ迄も
登れ 黒き斑紋を背負って
蜘蛛や {ルビ喙=クチバシ}を 震わし
幸運を這わす 半球体の聖母よ
一際目立つ気高き苦さで
....
嘘をつけない君が
いま溺れかけてる
なのに、泳げるフリをして
「いつも踊ってるだけ
こんな風にいつも こうやって」
ソウ言ッテ
道のない道のうえに 明日を ....
細い細い砂山は
伸びでた一頭の獣の首
蹲ることもできず
枯れ果てし{ルビ茅芒=カヤススキ}の
散りゆく波打ち際
耳を澄ます月が
寂しさに馴れた門のように
....
消えてしまった記憶のように
星が、炎に話しかける
小さく小さく話しかける
キラキラと明るく
寿命のある指先に乗った鮮かな痛みのように
炎は首をはげしく振って
いやいやをしながら
重い ....
カリメラ 刻一刻、思いさだめて遂げる 深い一筋の刻み目
カリメラ 酒臭い沈黙のなかで酔いかけては醒める カリメラ
旗の切れ端は、雑巾のように今は静かに濡れている
たまたま眠ったりすれば いろ ....
*
{ルビ黝=くろず}んだ緑色の風景が{ルビ錆=さ}びてゆく
流れる光の寂しい{ルビ故郷=ふるさと}の未来は
今だけ{ルビ微=かす}かにほんのりと盛り上がって
けれども
断えず推移し ....
表情という「ことば」の 固有の複雑さ というのは
空のように標準語でありながら
流れる無限の 雲模様に訛った 文学に見える。
曖昧という顎ヒゲを剃って
鉄塔のように嘲笑ふ
....
*
果てしない一群の墓標が
ここに夢を綴じている
今、私に見つめられたそれらも
かつては何かを、彼ら自身が見つめていただろう
たった二つの
魂のかけらめいた瞳の ....
*
それでもいい
遠い足音の偬しみも
かわした言葉のすべてが いつか跡形もなくても。
ぼくらの中にだけ積もってゆく
ただ、それだけ、であっても。
純度の高いまだ ....
何モ言ワナイデイルわけでもないのに
アナタはまだ聞き慣れてもクレナイ
ヤサしくてヤワらかくて
包まれて火傷する
陽射しのような眼が照らす
ワタシの奥の冬を
イマを失った ....
花でもない なんでもない 碧き苔
土に落ち
ひっそりと咲く
世に咲く何ものであっても
わずかに命をたたえ
一瞬の音が残される
今朝は雨だった
乙女のような爪の軒先に
....
唇が羽ばたいて美しい言葉を吐くとき
肺が搾る情熱の{ルビ泡=あぶく}は音をかき鳴らす
心臓の歯車が{ルビ描=か}きなぐる視界のそのずっと奥まで
背中を押し続ける真実が、今キリキリと君に発火する
....
『悪魔の舌 PART2』
五月始めの或晴れた午後のことであった。
3時を少し回った頃、私はただ何となく
空を見上げて、ぼぉっとしたまま、無心な
状態でいたと思う。突然、スマートフォン
....
孤独な指先を
そっと浸すように
冷え冷えとした土の中から
上に向かって堕ちてきた
それは
生えだした
うねり
しなやかに燃えて 落ちていく曲線のむこうに
求めてやまなかった影があ ....
祈りは、行為の種だという
伸び出た行為の葉陰には きっと
きみの祈りの花が咲いている
祈りが 行為の種 ならば
行為が 祈りの花 だから
....
花はみずからを
最もか弱い葉であると思って散り
多くの葉は我が身こそ
逞しい花であると思いつつ繁る
樹はそれを黙って哀しみながら
春が花を愛で 秋が葉を罰す ....
答えてよ新宿
馬鹿馬鹿しいくらいに
線路が無数に重なって
枝毛だらけの細胞分裂
ヌケガラの街を
駆け巡り 人は どうやって
行きたい場所に辿り着く
....
+
プラナリアにとてもよく似たあなたも普段はありふれた両生類として
揺らめいている。〔時折〕爬虫類の要素を尖らせて、眠るのを怖がり
泣いていた〔けれど〕頭の中では真っ先に哺乳類の細胞を一つだ ....
束の間の輝きが水面に射すと
魚は 眠らない営みにリラリラと
言葉を浮かべ
手に取ろうと揺らめく影を砕いて
その光の枠を抜け出したまま
ほんの夏の終わりの方まで滑ってゆく。 ....
動かなくなったきみの
頬が笑う
「冷た過ぎやしないか」
そう、遠くから伝えてみる
アノ
澄んだ温もりは
いま
灰色の何処に熔けてみた
のか・・・
....
すぐお腹がすいてしまうな(・・・)
と(思ったら)、
もう そんな時間になってた
ちょっと時間ができると
寂しくなってしまうのに
時間を忘れつづけることはできない。
....
【全国‐同姓同名辞典】によれば、
栄えある1位は、
田中実さんである。
鈴木実さんは、惜しくも3位。
せっかく名前が実であっても、
苗字が田中と鈴木で大違い。
どうせ ....
*
街にある異郷に独り
Gaudi は私と同じ夢をみる
見つめ続ける螺旋の渦に
マグマの足どりは溶けて
故郷に横たわる公園に独り
面影と一緒(とも)に眠る
荒海を越えて辿 ....
***
「さすらい人の夜の歌」
(ゲーテ原作/ハァモニィベル跳訳詩)
山は死んだように眠っている
樹々も呼吸を止めたまま、ピクリともしない
頬を撫でながら過ぎていく ....
静かに激しく揺れる夜の詩人よ
なぜこんなにも闇を否定するのか
私の中の
この何かが
凍りつくこともゆるさずに
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