歩くのに慣れて
つまずかなくなった
娘は
平地でもつまずいて転ぶ
ひざっこぞうに
青あざをつくって帰ってくる
そのたびに
下を見て歩かないから と叱る
歩き始めたばかりの頃は
も ....
女の子が手をふる
「てっちゃんの、おかあさーん」
私はあの子の名前
知らないのに
顔と名前を覚えるのが苦手で
人に会うと、どきまぎしてしまう
間違ったらどうしましょう
それはまるで ....
開いた窓から、風がカーテンを盗もうとする。
黒雲は南から押し寄せる、太陽は眩しい光を放つ、
互いにせめぎあう。
どちらが勝っても、私たちに出来ることはたいして無い。
地上に根を ....
ワーズワースの見た虹を
この街で見ることはできないが
ビルとビルの隙間にできた細長い青空に
短い帯を見ることはできる、そして
私は指差して教えてやる、私の子供たちに
なぜ ....
てのなかにこっぷ
すこしあつでのあおい
そうだがらす
とじこめられたちいさいきほうは
えいきゅうとうどのなかのきぼう
みどりのゆめをみる
てのなかのこっぷ
やわらかでかたいえきたいの ....
切れ ぎれの 言葉
あきらめて しまったのではなかったの?壊れた
どこか が 壊れた 回路を使って
発信する 音波 短波 放送 ラジオの
音 声 が 強まったり弱まったりする ....
赤ん坊の髪は
ふんわりと柔らかだが
つんと真上に立っている
ささやかに主張している
見る人は優しく微笑むだろう
五月のオーチャードグラスを
誰も刈ろうとは思わない
日曜日の朝には
ふたりで散歩に出かけた
草花を摘んだり
空を見上げたりした
原っぱには
一本の砂利道が続いていて
その道をふたりは
ただ、まっすぐに歩いた
ときどき
トノサマ ....
雨上がりの庭に 光は柔らかに落ちて
ひとつの 足跡を照らす
くっきりと
けれども静かな 陰影で
飛ぶ鳥が
地上に触れていきました
生きることの重さを
自らの翼にの ....
すべてを解り合える
そんなことを考えるなんてどうかしていた
けれど、たぶん
それが終点であり、始点でもある
私たちは循環するバスに乗っている
片手に
希望という鞄を ....
風が
砂の上に言葉を残していく
見えない指先が作り出す
美しい波
足跡を残すこと が
躊躇われる日に
その言葉の意味を知りえたなら
どんなに救われるだろう
....
ななかまどの実は優しい
目覚めるにはまだ早いの、と
種を包んで眠らせる
外は雪、小鳥たちには信号
わたしはここよ
赤く光って合図する
ついばまれる実
やがて種は
生まれた場所を ....
秩序を作ることはない
世界は
混沌としているのだから
わたしも( )で括って
きれいに
因数分解することはない
上澄みをすくい上げることで
失われてしまうなにか
砂金の粒が沈んで ....
カナリヤの歌が聞こえる
あなたには、聞こえない
わたしには、聞こえる
葦原を吹き抜ける風の音に混じって
低く、すすり泣くような旋律
私は言葉を持たない
歌う ....
音になるまえの おと
歌になるまえの うた
暗く静かな時空の中に
君の居場所は
きっとあった
生まれたばかりの かぜ
一番最初の なみ
弾かれるための弦のように
始まりの場所は
....
せめて夢のなかくらい
思い通りにならないか
閉じた扉
切れたワイヤー
エレベーターで落ちていく夢を
いくども 見た
地上に衝突する瞬間の
痛みは思い出せない
もぎ取られた浅い眠 ....
ちろちろと赤い舌?
いいえ、あれは小さな炎
黒土の下にはずっしりと火種
気化しているのはいのち
それとも、みらい
ぽっ
ぽっ
炎色反応はやがて
リチウムの赤から橙へ
橙から黄、黄色か ....
秋はゆっくりと来ていた
朝夕の風を
冷たくすることから始めて
草花の種を気まぐれに弾き
ななかまどの実を
少しだけ赤く染めてみた
けれども空はまだ若い
夏の面影を残していた
梢には ....
影が長くなった
昨日よりも 今日
罪を引きずっている午後
奇妙に明るい空
雲が
凄い速さで流れていく
地上には少しの
風しかないのに
手の届かないところで
ぐんぐん形を変えて
....
−季節外れの福寿草が咲いた朝に
眼を閉じていたいんだ
烏
その眼は遠くが見えるから
口を噤んでいたいんだ
烏
叫び声はしわがれているから
太陽は今日も低 ....
生まれてはじめての雪に
子どもは小さな手を伸ばす
白い雪花をつかもうとする
指を開いても花はどこにもない
黒々とした丸い目が
さらに丸くなる
降る雪を
つかんではひらき、ひらいて ....
机上に
紙を一枚立てたいのなら
紙を折ったり、丸めたりするといい
薄い紙ならなおのこと
いくども折ったり、丸めたりする
内側に書かれた文字が
外から見えなくなっても
強さを優先するな ....
心はどこにあるの と
問われたら
胸の奥に と
答えたい
科学の時代
解き明かされる人体の不思議に
心は脳にこそある
証明されても
あなたの指先が触れた瞬間の
電気信号は
....
今日という日が終わり
太陽は地に落ちて
暗い 夜が始まる
冷たくなった空に
白い月が懸かっても
昼の明るさには
敵わない
赤ん坊は泣きながら眠りにつく
母親は優しくあやしてやる
....
憧れはわたしに
足りないものを教えてくれるけれど
足りないものを足す方法は
教えてくれない
どんな大人になったらいいかを
わたしは知らなくて
憧れる人はいたけれど
どんなに頑張っても ....
秋が深まれば
孤独の色も深くなる
憎しみに火をつけても
重たい胸のつかえを
溶かしたくなる
2006.10.17
生暖かな風が吹き抜けてゆく
ようやく緑の穂をつけた
オーチャード・グラスが
ざわざわとざわめく
雨が降る
雲はまだ薄く
北の空には光が残っている
ふいに、蕗の葉が大きく翻って
....
ぽきりと
折れてしまいたい
木よ そう思わないか
冷たい 雨と風にさらされて
いつになれば
春は訪れるのだろう
折れて
倒れて
地に伏せば
今とは違う風景が見えるかもしれない
....
イチリンソウが 咲いた
一輪で 咲いた
手折ればすぐしおれる
春の日の夢
一輪で咲くことを
神に 赦された
一輪で悲しむことを
神に 赦された
染まらない
その 白の痛みに
....
こぼれ落ちる吐息を
止めることができない
形を与えることがまるで
罪だとでもいうように
あなたは口をつぐむ
それでも
川は流れる
高い場所から低い場所へ
風は吹き抜ける
地球をや ....
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