また逢おうねと
夕日の端っこで指切りして
妖精がキスをした小指の先
ワレモコウのように
血が滲んだように赤く
唇に当ててみる
妖精に貰った切符で帰る道
影をふちどる赤い波
改札 ....
パリの妖精
第11話「ルーブル美術館の妖精」
あの人は愛してくれた
月を背にして
そっと忍び込み
ランプを吹き消す
煙がカーテンになり
月の目をかくす
あの人は忘れない ....
砂子で宇宙を描き
夜の卵を割る
月が生まれ
時計草の秒針が
眠れない想いを
刺して蒐めて
美しい言葉に並び変える
砂子の料紙に
時計草に似た太陽と
妖精の詩が刻まれる
戻ら ....
日常の風景を
見えるものを
ただただ
刺し身のように並べられても
私は食べたくない
パリの妖精
第10話「チュイルリー公園の妖精」
木陰に作られた笑顔の巣
移動遊園地も去り
妖精は窪んだ芝生に
ひとつひとつ息を吹き入れる
チュイルリー宮殿はもうない
たく ....
秋の入口に
ミツバチと作った
練り香水が届けられ
夏の出口に
琥珀のとんぼ玉が
髪を束ねてかざられ
いつも喧嘩して
跳ねた髪さえ
真っ直ぐに
妖精の練り香水で
気持 ....
満月を半分切取って
キノコのように
森の奥深く置く
冷たい森に白い光り
ウサギもキツネも
目を閉じて寄り添い
虫は寝言で歌い始める
薄く羽根一枚ほどの
温かな月の光り
夜明け ....
月の裏に池があったの
あなたは覚えている?
私はクッキーを焼いて
ラズベリーソースをのせた
初めての恋だった
でもあなたは行ってしまった
あの星に種を蒔くと言って
枯れた池を見に ....
パリの妖精
第9話「セーヌ川の妖精」
誰が流してくれたの
子供だろうか恋人かもしれない
マロニエの葉が一枚
セーヌ川をいく
マリー橋の欄干から妖精が
舞い降りて横になり
....
小枝から千切れた葉を
風が小川に運ぶ
妖精が降りてきて
流れる金色の葉で昼寝
キキョウもリンドウも
カエルもアメンボウも
メダカもカジカも
二度とない秋の昼休みを
空の下で味わ ....
楮で言葉の敷布を漉く
ゴマを焼いて墨を頂き
獣の命を筆にする
雨畑の水は鏡のよう
自然の魂と動物の魂
落款だけは私の血を捧げる
宇宙に置かれた墓標には
時間の誕生日と感謝の文字
....
泣いてる子は寄ってごらん
あっという間に満タン
引火点を下げて笑い上戸
心の揮発性をあの空くらい
高く上げてあげるから
レジで払うのは涙でいいよ
百万年前の炭を精製するから
お釣 ....
窓ガラスに残る雨だれ
通り過ぎる車のライトが
ひとつひとつに色を付ける
桃の実のように淡く赤く
クランベリーのように
雨を吸ったすすきの穂
月にかざすと花が笑う
狐の嫁入りの ....
雨の夜はプディング
香辛料と優しいミルク
開いたばかりの花
熟した果実の香り
オーブンに入れて
待っている間に
手紙の返事を書く
私の心は言葉に刺され
赤くやわらかく
プ ....
バターの焦げた匂い
ビスケット
クッキー割ってごらん
あまい星
花のエプロン ランララン
妖精の足跡 森の笑窪
急がないで飛ばないで
スキップ踏んで手をつなぐ
生ク ....
満月の夜に妖精を見た
風の精と踊る葉は光り
粉雪のように揺れ
私に降りそそぎ
こっちの国へおいでと言った
明日になればきっと忘れる
今夜だけ私は妖精になる
白い光りに溶け ....
パリの妖精
第8話「マドレーヌ寺院の妖精」
マグダラのマリアの手に
丸くなって眠る妖精
窓もない巨大な空間
天井からランプが吊るされ
祈りの言葉がただよう
今日の ....
足音を拾い集めて
紫の花にして吊るす
雨の歩く枝は細く
浴衣の髪に一輪
待ちぼうけの黄昏
デュランタの実は
夕日の色を塗られ
蟻が妖精に熟す日を聞く
後ろから影がすっと
私を ....
雲を詰めて創る
うさぎのぬいぐるみ
長い耳に付けた
虹のリボンは蝶結び
余った虹のリボンを結ぶ
空色の長い髪に
あの人が好きだと言った
虹のフレンチボウ
入院中のあの子 ....
パリの妖精
第7話「シャンゼリゼの妖精」
永遠につづく野辺は
死後の楽園エーリュシオンの園
魂は光の虫になり
果てのない世界で飛び回る
ラダマンテュスに命じられ
妖精 ....
地袋の上で眠り
記憶の雨漏りを
住処とする
血を吸った蚊
障子戸の隙間から
転生の池へ飛んで行く
色褪せた畳は
サボテンのよう
乾いた針が足の裏に咲く
煮出したば ....
いつでも最善を尽くし
いつでもこれで終わりだと
そう信じて枯れ葉がいつどこに
落ちるのかさえ分かった気がした
いつ夏の精が明日から秋だと
涼しい顔をして言っても
私はおどろかな ....
赤いラッパと白いラッパ
雨が止むのを待って
空に向かって奏でる
今はまだ逢えない
遠い星に向かって吹く
夢の中の声は小さくて
全身で聴きとって泣く
小さな黄昏に果てしない影
私 ....
小枝に星が止り
漏れ落ちる月明かり
微かに緑色に光る羊歯
苔は森の水を濾過して
妖精にどうぞと言う
言葉さえ持たない
透明な森の羊歯
葉の形は心の形
優しく恥ずかし ....
雨が止んで
月の光が庭に落ちる
照らされるのは妖精の羽根
背の高いタチアオイが二人
寄り添って踊り始める
赤い絵の具が流れるように
フレデリックが
月明かりでピアノを弾く
....
白い花に腰掛けて
草笛吹いてあなたを見てた
子供のあなたはあっという間に
私の時間を追い越して行く
大人になりたくて追いつきたくて
焦る気持ちが隠せない色になる
若草色がいっぺんに ....
天国に帰省しますと
空に向かって叫ぶ
たぶん
そうだろう
お盆に間に合うように
大地を脱いだから
けれど
神様がルビをふるなら
たぶん
「死にたくない」と叫んでいる
たぶん ....
パリの妖精
第6話「モンマルトルの妖精」
長い階段で見えるのは空だけ
五段先の石の上で
鳩がもう少しだよと言う
見渡すかぎりの幸せな街
パリで一番高い丘に棲む
一番幸 ....
風がひとりごとを
赤い睫毛に挿していく
合歓の樹は瞬きもせず
ベンチを見下ろす
街灯の代わりに
月明かりを落とし
長い別れの予感が
天秤座を見上げる
朝露のような二人の ....
パリの妖精
第5話「カルーゼル凱旋門の妖精」
街路樹は白い息と雪を
編みたての帽子と
マフラーのように巻く
底冷えの朝は空気も凍り
夜明けを告げる鐘の音は
氷を割るよ ....
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