カレンダーを一枚めくる度に
当たり前に季節は深くなってゆく
ビルとビルの谷間の廃屋にひとり住む老婆は
知らぬうちに彼方からの者を迎え入れる
表通りでは今日も賑やかな工事が進み
誰も気づかぬう ....
あ、あ、あ、剥がれ落ちる、私の細胞(たち)。
表面から落ちて、汚物(のようなもの)とし
て扱われて、泥の只中に乾いた破片として落
ちる。夏は天動説。私をめぐるうつし世がぐ
るぐると回る。醤油じ ....
何から何まで
犬の日々だった
私の瞳孔はつねに濡れていて
咽喉の奥はいつも渇いていた
風にさらされて 乾きすぎた手拭いのように
水に濡れた掌を求めていた
何もかもが
犬のようだった
....
――Sに
ばらばらにされる
(君のせいで)
俺が歩く その先々で
俺は自らの破片をばら撒いてゆく
路上に
天井に
....
――Sに
家に帰ると
君のために心をばらばらにする時間がほしくなる
俺は怪物になれるかもしれぬ
あるいはなれないかもしれぬ
そんなことを思うのもすべては
君のためで ....
――Sに
よく見てみれば世界は逆に回っていた
老人は杖を失い 赤子は乳を失った
退化の兆しを感じ取って皿はふるえ
投げられた石は空中に留まった
世界の最初は奇蹟だ ....
――Sに
すべての結果に原因があり
物事は (心の中の事象でさえも)
そのまっすぐな道を歩いているだけであった
だが
垂直に落ちる滝のようにひとつの感情が
....
村野四郎を近代詩人に分類するのは多少のためらいがある。確かに第五詩集までが戦前に刊行されており、戦前に出発した詩人として近代詩人の範疇に含めてもおかしくないかもしれない。だが、戦後三十年を経た昭和五 ....
溺れていく夏の海の傲慢を乗り越えて、原色
の光景にすべりこんでいく。速度を上げろ。
減速してはいけない。止まってしまったら、
たちまちにして恐怖がおまえをとらえるだろ
う。夏に生きる恐怖。夏に ....
――Sに
世界は美しいと感嘆する前に
やらなければならないことがあって
誰もがそこへ向かって走っている
完璧なソネットなど書けやしないから
俺の言葉はいつだって
掘 ....
夜 眠ろうとすると
世界中のあちこちから甥がやって来て
カブト虫を探してくれと言う
逃げてしまったらしい
眠くてもしかたがない
夜はまだ長いから
大勢の甥たちと一緒に
カブト虫を探してや ....
詩はいつも夜明けの相貌
足の記憶をひもとく余裕もなく
私は迷う
自らの足を踏みつけながら
置き去りにしてきた
枯葉の午後を追う
踏破せよ
惑いの道
あらゆる塩に咽びながら
入眠の甘さ ....
――Sに
雨
ひとつの雨
ふたつの雨
それらが落ちてきて
地上に 着地して
ひとつの感情を形づくる
ひとたびの雨
ふたたびの雨
降れば地上は濡れそぼる ....
ふうふうと
息をのぼらせ
この坂道をのぼってゆく
季節は溶解し
逆転し
暗転し
眠るものの肌を焦がした
ふうふうと
息をのぼらせれば
ふうふうと
あえぐ空 または地
(私はあ ....
傾いて
その周囲に小さな
豊穣を張り巡らせながら
季節の同調を軽んじてゆく
絵の中の成果
熟れすぎたくだもの
(あるいは くだくもの)
裂かれるために実る
歯のいのちの前でおびえるもの ....
勢いこんで始めてしまった「近代詩再読」シリーズ。前回は長い詩暦を誇る草野心平をとり上げたが、今回はいきなり立原道造である。草野心平は八十過ぎまで生きていた人だが、立原道造はわずか二十四歳で亡くなって ....
詩のことについて考える。自分が詩を書いているということについて、その意味を考える。詩を書くことに意味はあるのか? あるといえば、ある。ないといえば、ない。はっきり言えばよくわからない。だが、自分が詩 ....
水の中に深く潜ると
魚たちの溜息がきこえてくる
どうせ水のある場所でしか
生きられないいのち
われらの時には
乾いた真実が欠けている
ソレイユ!
ソレイユ!
光は水の中にまで入りこみ
....
そして、
海は濁っていった。青黒く、あるいは黄色く、
濁ることで海はひとつの予兆を示した。水平
線までの正確な距離をはかろうと、漁師たち
は考えをめぐらせ、砂 ....
間違いを犯さずに
生きていようとつとめてきた
少なくとも
大きな間違いだけは
生後 という
言葉がある
生まれた 後
という意味だが
つまりはこの世に参入してからの
....
のこされた風の中
四月がやって来る
この思いをのこしたままで
新しい輪に入らなければならない
記憶を背後の倉庫に閉じこめて
残酷な月が始まる
すべての匂いや音や色が
われわれを呼吸困難に ....
人が日常生活において言葉を発する時、それは普通ごく近い場所を対象にしている。家庭でも、職場でも、あるいは街中でも、言葉は近くにいる人に向けて、または自分がいるエリアの中に存在する人に向けて発せられる ....
罅割れた道の端に立つ
この道は水分を欲している
左腕を伸ばし
拳の先で親指を立てる
すると 車が止まる
あるいは止まらない
二十世紀末という
古代でももっとも新しい時代
私はそのよ ....
夭折
{引用=まだ生きているのか
そんな声が聞こえるのは
夜の 穏やかな枕の中だ
まだ生きている
時代を通過して
場所を通り越して
まだ何とか 生きているのだが
もう生きて ....
箱入り娘に関する一連の推論は、世界という
もうひと回り大きな箱に対する裏切りのひと
つであり、それを論じる者たちは、それを奪
おうとする者たちと同じく、等しく同じ罰を
受けなければならない。箱 ....
書けなかった詩の断片が
ちぎれた草になって
風に舞っている
いのちは永すぎる未完
死してなお
始まりにさえたどりつけない 未完
私の夜はいつもと同じ旋律を
内側の街路にまきち ....
ご覧なさい
桜の花が満開じゃないの
ねえ
ご覧なさい
誰もが浮かれて
踊るように笑っているじゃないの
ねえ
花見だか何だか知らないけれど
生きている人って
気楽なものじゃない ....
ゆうらりと
ゆれてしまえばかげひとつ
かげとかげとがかさなって
もっとおおきなかげひとつ
もっとおおきく
もっとかぼそく
うたってしまえば 月 むざん
うたってしまえば 夜 むざん
....
昔、一九九八年から九九年にかけて「夜、幽霊がすべっていった……」という連作を書きついでいたことがある。後に「現代詩フォーラム」に投稿し、個人サイト「21世紀のモノクローム」にも掲載した。
いまさ ....
以前から思っていたのだが、恋愛というものは詩のテーマにするにはあまりにも難しいものではないだろうか。それなのに、やすやすと恋愛をテーマに詩を書く人が多いのは、僕にとっては疑問である。恋愛詩を書くのは ....
岡部淳太郎
(356)
タイトル
カテゴリ
Point
日付
秋の暦
自由詩
7*
06/9/16 22:45
細胞(たち)の夜明け
[group]
自由詩
6+*
06/9/10 21:23
犬の日々
自由詩
10*
06/8/30 23:15
破片
未詩・独白
8*
06/8/25 19:07
俺たちとは呼べない俺と君
未詩・独白
5*
06/8/25 19:07
虹、虹、雨、曇天、
未詩・独白
4*
06/8/25 19:07
ポエティック・メランコリー・シンドローム
未詩・独白
8*
06/8/21 21:15
近代詩再読 村野四郎
[group]
散文(批評 ...
7*
06/8/9 22:37
溺れていく夏の
[group]
自由詩
16*
06/7/21 21:40
出来損ないの七十行
未詩・独白
7*
06/7/17 15:40
世界中の甥
自由詩
15*
06/7/9 22:01
迷路、あるいは疲労した道
自由詩
9*
06/7/1 18:32
ふたたびの雨
未詩・独白
5*
06/6/25 23:19
地霊
自由詩
8*
06/6/15 23:31
死物
自由詩
10+*
06/6/1 22:55
近代詩再読 立原道造
[group]
散文(批評 ...
15*
06/5/21 22:22
平準化する世界に対抗するために ——池袋ぽえむぱろうる閉店に ...
散文(批評 ...
12+*
06/5/7 22:10
不在票
自由詩
6*
06/4/30 21:56
そして海は濁っていった
[group]
自由詩
11*
06/4/24 22:11
生後
自由詩
10+*
06/4/17 22:10
四月のいる場所
自由詩
16+*
06/4/11 23:14
遠い場所へ届こうとする言葉 ——中村剛彦『壜の中の炎』につい ...
散文(批評 ...
7*
06/4/6 22:49
古代人のヒッチハイク
自由詩
10*
06/4/2 21:33
夭折(三篇)
[group]
自由詩
13*
06/3/27 21:53
箱入り娘に関する詩的考察
[group]
自由詩
6*
06/3/21 22:31
未完の夜
自由詩
18*
06/3/14 22:04
幽霊と桜
[group]
自由詩
12*
06/3/8 22:31
霊能者が書き留めた幽霊の聴こえない歌
[group]
自由詩
8*
06/3/1 22:46
「幽霊」についての私的覚書
散文(批評 ...
5*
06/2/26 21:54
恋愛詩の可能性
散文(批評 ...
17+*
06/2/18 22:01
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
0.22sec.