小学校から帰って
叔父に自転車の運転を習う
家には大人用しかない
「両足がとどかないよ」
「おれだってとどかないよ」
叔父は自転車のサドルから腰をおろして
片足しかとどかない姿をぼくに見せ ....
狩野川台風で橋が落ちたために
駅からタクシーで大まわりして
修善寺温泉街にはいった
九歳のぼくは父と母に連れられて
和風の大きな旅館にはいる
玄関をあがるとすぐに大きな池がある
池の周 ....
小学校の体育の時間に
逆上がりができなかった
隣りの席の女の子が休み時間に
鉄棒をしにいこうと誘ってくれた
ぼくらは二人で
校庭の隅に立つ鉄棒に向う
鉄棒は低いのから
順番に高くなってい ....
東京都足立区立千寿第二小学校
一年三組の教室に入る
すでに半分くらいの同級生たちが来ている
ぼくは黙って自分の席に向かう
座るとうつむいて
机の上の
ナイフでえぐられた傷跡や
木の節 ....
荒川放水路にかかる鉄橋に
次兄とぼくは向う
川の土手にある踏み切りから
線路にはいる
手をおくと微かな震え
枕木に膝をついて
線路に耳をつける
太鼓の低い音
「電車がくるぞー」
ぼく ....
たまにしか見ない子が来ても
近所の子どもが集まると
すぐに仲間になって遊ぶ
長兄はこのあたりのリーダー
ビー玉をしようといいだした
みんな家にかえって
自分のビー玉をもって
ふたたび ....
玩具屋から
長兄が竹と網を買ってきた
二本の竹を十文字に交差させる
曲がりにくいところは
ロウソクの火であぶって
柔らかくして
十字の結び目を針金で固く縛る
網を竹の先端の四隅で止めて
....
小学校の体育の時間に
逆上がりができなかった
隣りの席の女の子が休み時間に
鉄棒をしにいこうと誘ってくれた
ぼくらは二人で
校庭の隅に立つ鉄棒に向う
鉄棒は低いのから
順番に高くなってい ....
晴れた春の日に
幼いぼくは
緩やかな坂をのぼる
菜の花がまばらに咲いている空き地に
白く小さなものたちが
浮いたり沈んだりしている
菜の花に止まっている
蝶の羽に手をのばす
指 ....
小学校の修学旅行で
男子は三つの班に分かれる
クラスのほとんどがいずれかに手を挙げたが
ぼくはどの班に入っていいかわからない
先生が人数を確認していく
「男子がひとり足りないわ」
それ ....
東京都足立区立千寿第二小学校
一年三組の教室に入る
すでに半分くらいの同級生たちが来ている
ぼくは黙って自分の席に向かう
座るとうつむいて
机の上の
ナイフでえぐられた傷跡や
木の節 ....
ぼくは少年のころ
特別な存在だった
月光が家の前の袋小路を照らすころに
宇宙から迎えの使者がくるはずだった
トイレの中の窓がまぶしく光る夜
ぼくは何事かと小窓をあける
袋小路に円筒の光 ....
その日早く
小学校に着いたぼくは
講堂の前に並ばされた
校門から入ってくる
青い制服の子どもたちは
波が引いた磯の蟹だ
校庭の砂を踏みながら
青い蟹たちが拡がる
背広を着た ....
職場で叱られそうになって
動悸がしても
南無南無南無と口ずさむと
意識が現場から逸れて
少し楽になる
幼い頃に
母に連れられて寺に行き
大きな仏壇の前で
毎日題目を唱える
そうい ....
小学生のころは
苦手な体育と図画工作の授業がある明日が
はやく終ってほしかった
「ちっともうまくないからやめてしまえ」
とぼくはいう
「そうはいかないんだよ」
と役者のぼくがこたえる
そ ....
アンコールワットの回廊に
群れている阿修羅のレリーフは
湿気にふくらみ
熱帯の日に穿たれてひび割れながら
蛇の胴体を太い腕でつかみ
眉毛を盛りあげ
侵入者をにらんでいる
阿修羅たちはどの ....
小学校にはいって間もないころだ
ぼくは母と兄とで電車に乗った
扉が開いて母が座った席の左隣を
すばやく兄が占領した
母の右隣の席は空いていない
ぼくは兄の隣に座るしかなかった
母は電車 ....
地面から声がする
見おろすと小さな
白い帽子が揺れる
帽子を乗せている茎を折って
目の前に近づける
帽子に見えたのは
米粒よりさらに小さな女の子たちが
たくさんぶら下がっている姿だっ ....
白いシーツがうねりながら迫ってくる。ぼくはおおきなベッドに
いる。シーツは生き物のようにぼくのからだを捕らえる。シーツ
に巻き取られると、頭まで包まれて目の前が暗くなる。シーツが
締めつけてきて ....
割った石を硬い石で叩いて
形を整えて積みあげる
石と石との間には剃刀も通らない
石の壁は数百年を経ても崩れないで
空に近く雲をしたがえて
城塞と都市とを保っている
毎朝通勤電車の始発駅 ....
朝起きて具合が悪いといったら
「休みなさい」
と母がいう
ぼくよりいつも遅く出かける父は
今日は会社に行ってすでにいない
うまくいった
とぼくはおもった
普段なら熱をはかられて
「 ....
日曜日で小学校は休みである
縁側で日向ぼっこをしながら
ナシナシナシ
とぼくはつぶやく
自転車に乗れないのはおまえだけだと
次兄がぼくを小ばかにした
ぼくは言い返せないで澱んだ気分を
....
小学校で
同じクラスの子が
かたりあうのを
はなれたところからみていて
ぼくは独りでいるのに気づく
肩がさむくなり
腹が水にぬれた革のようにかたくなる
やすみ時間が
はやくおわって ....
ひらがなを読みはじめたころだ
ぼくは母と一緒に千住の街を歩いていた
街角の壁に貼ってある
映画のポスターには男の人と
女の人の顔が描かれていた
そこに読めない漢字
「あのじはなんとよむの」 ....
ぼくは小学校にはいるまで
母の隣に寝ていた
母が小料理屋を始めて
夜遅くまで帰ってこなくなった
ぼくらの面倒をみるためにきた叔父が
押入れにあがって布団を被った
ぼくも隣にはいる
ぼくは ....
遅刻しそうになって
朝食を喉につめて
走って小学校に行く
教室に入ったとたんに思いだす
今日は図画工作の日だ
先生から新聞紙や糊やハサミや色紙を
持ってくるように言われていた
ぼくは ....
小学校から帰ったぼくに
「今夜はお母さんの店で夕食だぞ」
と微笑みながら次兄がいう
長兄が帰ってきたところで
兄弟三人で冬の夕方の千住の町を
母の店に向かった
今夜は母と一緒の夕食だ
....
立ち止まると
黒子が幕をあげて
回想の舞台があらわれる
三十年も前のこと
大晦日の夜中に
明治神宮に初詣に行った
十二時を過ぎると
賽銭箱にむけて
たくさんの人が硬貨を
人々の頭 ....
尻が黄緑色の赤いりんご
地球の頬が凹んだ形
よく見ると日本列島のあたりに
小さな傷がある
皮ごとかじると
茶色のしみになっていて
セピア色の記憶がよみがえる
家族で
伊豆の修善寺に ....
運動会のリズムダンスの練習で
女の子と
腕と腕を組んでスキップする
回りだす小学校の校庭
小柄で
勉強ができて
やさしくて
笑顔のかわいいきみと
ぼくは組になって跳ねる
音楽 ....
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