「――ないのに」
愛していたんだ、確かに、いつか
かすんだ想いは、もう輪郭さえ溶けて淡いけど
でもないていた君の声だけは
痛みくらい鋭く僕の心に刺さったままで
何が ....
生まれてきたいと、彼女が望んだ。
まだ空一面が青色だった世界。
それはまるで、月の重力のようにやわらかで、けれど珪石のように尖って痛い、目に見
えるものすべてが水底みたいにたぷんと揺れる画 ....
僕よりも冷たい君の手。
ここに居てもいいですかと訊いてしまうのはとてもこわくて
悲しいこたえを知っているような気がして
言い訳ばかり思い浮かべては
泣いてしまいそうで
きっと許されてはいけない、
何 ....
例えば、
降り積もった雪を白い靴で踏みにじる子供。
例えば、
大好きだった玩具の名前さえ忘れてしまった少女。
例えば、
透明な硝子片の先を細い手首に添える少年。
....
眠りの中で思い出すのは思い出となった未来の景色
波は雲に砕け水面は空に満ち風の駆ける水底で君は微笑む
陽炎は光の衣をまとい
過去に残された思いは忘れ去られた今を抱き留める
透明な波音 ....
「何を見ているの」と訊いたら、
「夜を見ているの」と君が答えるので、
「今日の夜は綺麗かい」と訊いたら、
「明日の夜より綺麗よ」と君は投げ遣りに言った。
月の昇る方角なんて知らなくて ....
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