体が
向かい風にほぐされる
気の遠くなるような 長い
坂道で
すっかり気が抜けた街は
午後の光に洗われて
いつかどこかで見たような色合いに
染められている
道に落ちた影の輪 ....
振り返る 月が見ている
足下に
柔らかい形の子猫がいる
一日のどこを切り取っても
水と緑の匂いがするような
素肌の季節がやってきた
僕はその真ん中で
体を風景に溶かしながら
それでも真っ直ぐ立っている
色々な細部や残像が
目の前を通り過ぎ ....
この夜明け
街は忘れていた形を取り戻していく
影が生まれ
新しい気配が景色を横切る
一番透明な時間に
一番透明な予感が
僕を通り過ぎる
寄りかかった壁のその冷たさだけが
まだ夜に属 ....
向かい風を頬に受け 冬の終わりの匂いにむせながら
静かな午後を歩いていく
ポケットに手を入れて 青ざめた思い出を抱いて
たまにきょろきょろしたりして
靴を打ちつける仕草も様になってきて
....
かさぶたを剥がす勇気を持てないまま 大人になって
涙目の思い出も忘れて
心の水気が渇いてしまう前に もっと遊ぼう
繰り返し繰り返し 遠くへ飛ぼう
ゆらゆら ゆらゆら たよりなく揺れて やが ....
水色は
涼しい色
眠りから覚める瞬間に
見える色
ガラスに頬を寄せた時に
感じる色
貝に耳をあてて
波の音を聴く
君の姿を見た時に
皮膚の下を流れ ....
流れる水の哀しい感触に運ばれて
街の隅にたどりついた
前世の匂いのする風が
頬と首筋を等しく撫でた
桃の薄皮のような
日に焼けた 心細い皮膚を
誰かに引っ掻いて欲しかった
痛がりで ....
手に入らないものしか欲しくない
ガラス窓を開いて
星を数えると指が濡れた
絹のシーツの上で
秘密の言葉を口移し
夜の一番深い時間に
初めての声色を使う
....
午後のこんなひとときに
時間のことや宇宙のことや
恐竜のことを考えていると
とたんに瞼が重くなる
今僕がここにいるということ
空気を入れ換えようと窓を開けると
ベランダの柵の間 ....
無人の教室の窓際の席の
机に腰掛けて 足を投げ出している
君は夏の子
白い横顔
幼い頃の誰かに似て
生まれる前の恋人に似て
小さな爪跡を僕に残す
君は夏 ....
むき出しの腕を風が滑っていく感触は、
洗いたてのシャツに袖を通した時によく似ている。
ペダルを踏み、耳の後ろで逆巻く風を感じながら、
夏がくるのだ、と君は思う。
街の影が ....
ポケットの中のごみくず
五月の晴れた空
遠い水の匂いと
静かな予感が 僕を眠たくさせる
つま先を打ち付ける仕草
白いシャツの背中に寄った皺
言いかけて止めた言葉 ....
ひた隠しにしてきたものを
木陰に紛れて研ぎ続けてきたものを
ポケットにそっと忍ばせて
不器用な空想を描いてる
月は出ていないし
眠るにはまだ早い
手持ちぶさた ....
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