家族が
微笑みあって食事をしている
目の前に出された献立はみなそれぞれ違うのに
年齢も性別も所属団体も違うのに
それぞれがそれぞれの話題を
提示してかきまぜて咀嚼して
家族スープになって
....
ある冬の朝
公園で
撤去された箱型ブランコの支柱の真下に座り
砂に文字を書いている
星が消えようとしているうちに
あらゆるところで細胞が目を覚まし
孤独な宇宙は
太陽に凌駕されていく
....
あなたに齧られた痕
二の腕の内側にくっきりと刻まれた
あなたの歯型
一晩たって紫色を帯びている
そっと唇を触れてみて
こんなやわらかい肌に
あなたが突き立てた歯の力強さを思う
そんな ....
夕方と夜の境目
湖畔の輪郭が紫色に曖昧になったころ
湖に身を乗り出し水平に手を伸ばすと
足元に流れ寄る無数の細かな波が
浮力となって
まるで
湖の上を滑らかに飛んでいるかのような気分になる ....
眠れない夜に
窓から差し込むおぼろな光が
私を月の世界へ連れて行ってくれやしないかと
目を凝らして
そのうち光と影の境界もあやしくなってきて
本当に自分は今
月へ向かって
旅立とうとして ....
あなたから溢れる潮の音が満ちてくる
私は抱かれながらあなたに浸されていく
こんなにも安心して
私は生きている、と思う
フローラの口から
花がこぼれるように
私とあなたの口から
流れ出す
....
恋を忘れ愛を忘れ、待つという感情もなくしてしまった
みにくく肥えた腹には怠惰がつまっている
夢の中で私は何度もナイフを腹に突き立てる
中からナイフに貫かれて出てくるのは
こひびとの胎児 ....
新しい駅の階段を下りながら
夕焼けの美しさに見とれてつい 足元をあやうくする
帰宅を急ぎ行く群れの中で
私はくしゃみのようだったか
(誰も振り返りはしない)
毎日を同じようにくり返 ....
背中に
冷えた地球の大きさを感じながら
夜空にときおり描かれるひっかき傷を眺めている
ひどい振動がして
一台の車が頭上を通り過ぎたが
その一瞬に
私の視界を遮ったヘッドライトと
一晩 ....
笛の音が滴る 波紋が暗やみに満ちてゆく
私は白く閉ざされ動くことができない
ほんの数ミリ 口から暖かい息が動くのを誰に感づかれまいとしているのか
視線が拡散し 霧の一滴一滴に乱反射する
私 ....
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