壊れかけた百葉箱の中で眠っている僕の架空の妹
いろいろと短いのに産まれた順番だけで長女になってしまった
安心して眠れるように頭を撫でてあげるけれど
架空だから忘れられていくものがある
....
耳鳴りが気になって眠れない
そう言う君の耳に自分の耳を当てて
同じ耳鳴りを聞き続けた
あれしたい、これしたい
語り合う夢はまだまだある
この年になればいっそのこと
実現しない無 ....
雨季、冷たいだけの
椅子に腰
かけて
朝方の蝉が穏やかに
絶滅していく様子を
眺めていました
手を伸ばす
伸ばす手が
その手が
範囲
何も守れない
窓があってよか ....
書き損じた天気図の余白に
僕らは昨夜見た偽物の夢を書き続ける
筆圧があまりに強いものだから
明日見る予定の夢まで記してしまう
つけ放したラジオから聞こえる
ネジが酸化していく音
そ ....
ワカメは波平とフネの娘
サザエを姉に、カツオを兄に持つ
ワカメ、増える
増えるワカメちゃん
アニメのワカメは小学三年生の設定
以降、歳を取らない
永遠に歳をとらない
永遠に増えるワカ ....
ありふれたあなたの指先が
遅れてきた春先に触れている
今日も
曖昧な言葉で
あやふやな言葉で
愛は語られ続け
朽ち果てるのを待っている
同じものを見ていたはずなのに
あの時、あっ、 ....
電車に乗ると自宅の電気が消えた
おかしいなと思い電車を降りて電気をつける
大丈夫そうなので再び電車に乗る
今度は台所の水が止まらなくなってしまい
電車を降りる
蛇口を逆にひねると水は止まり改 ....
海の部品が落ちていた
大事な部品を落として
海は今頃
どこで凪いでいるのだろう
行方を捜すにしても
持っている地図は改訂前のものだし
海に関係する友達も
親戚ももういない
海を作っ ....
近所に世界の果てが出来た
白いベンチがひとつあった
僕らはベンチに腰かけて
パストラミのサンドイッチを食べながら
突き当りで折り返して行く飛行機を眺めた
世界の果ての地面にも小さな虫はい ....
海の隙間から波は産まれる
波は私を満たし
新たな海となる
私はかつて飛ぼうとした空のことを
思い出そうとするけれど
色と形のところで
見失ってしまう
車を洗車したら戦車になった
仕方なく戦場に行った
遅刻をしてしまったようで
味方から怒られ
敵からも罵声を浴びせられた
激戦地と言われているけれど
生き残る方法は
偉い人が考えてくれ ....
夜明けの街を自転車が
自転車に乗って走って行く
やっと夢がかなったのだ
自転車にしか経験できないこと
自転車でなくても経験できること
それらすべてを
貧弱な荷台に積んで
やがて世 ....
郵便受けの側に男が立っていた
誰なのか聞くと
まぼろしです、と言う
最近のまぼろしは良く出来たもんだ
そう感心しながら
差し出された朝刊の尋ね人欄を見る
今日も僕は
行方知れずら ....
人の息と
息の間で
僕は
息をした
僕の息と
人の息の間で
君は息をした
僕の息と
君の息の間に
朝はあった
毎朝
朝があった
生きていれば良いこともあるさ ....
僕に関係の無い人が笑っている
僕に関係の無い人が泣いている
僕に関係の無い人が風に揺れている
僕も少し風に揺れながら口を開けて
あの日のことを思い出そうとしている
あの日、が何のことなの ....
ネパールのおばさんと話していると
初夏の風が吹いて
自ずとら抜き言葉になる
門扉のところで自転車にまたがっている男に
日本語ではない大声でおばさんは話しかけ
それがネパールの ....
そして春が来て
今年も川辺の並木に
ホタルイカの花が咲いた
日中は褐色に湿り
夜になると仄かに光った
数日でホタルイカは散ってしまう
川に落ちたものは
海にたどり着き
地面 ....
犬も歩けば棒に当たるというけれど
今朝から当たるべき棒が見つからないし
君が大切にしていた犬は
もうとっくにこの世にはいない
手を握り
お互いに年を取ったね、と笑う
話したいことは ....
お線香の匂いがしたよ、
田中君の家の前
誰が死んだのだろう
誰が死んでいるのだろう
誰が生きているのだろう
田中君に聞いても
答えてはくれない
田中君も僕も
もう子供じゃな ....
プラスチックが降り積もる
世界は彩と形に満ち溢れ
ラジオからはいつものように
幸せな物語が流れている
どのように話したらよいのか
君に話したいことがたくさんあるのに
話すべ ....
安売りをしていたので
星をひとつ買った
命名権付きということで
相応しい名前を小一時間考え
以前飼っていた犬の名前をつけた
部屋の電気を消すと星は仄かに瞬いて
偽物みたいに綺麗だ ....
バスに乗って目を瞑ると
私の中を通過していく
一台のバスがある
開いた窓から
誰かが手を振っている
懐かしい気がして
手を振りかえすと
バスは小さな魚になり
泳いで行っ ....
人が笑っている
マユミが笑っている
マユミは母
オサムは父
オサムは死んでいる
首を洗って待ていろ、と
テルヒコに言われ
二十年、首を洗って待ち続けた
首だけがただ
....
水のない駅でした
蝉の音がしました
産まれた日もあやふやなままに
服の端が揺れて
私たちは何か話をしました
並んでいました
指を伸ばせば届きそうなほど
影になるとすべ ....
理由のいらない椅子が並ぶ
未明に墜落した紙飛行機の残骸と
食べかけのルーマニア菓子
砂浜の砂の数は
既に数え尽くしてしまった
栞の代わりに挟んだ魚が
静かに発酵して
すべての ....
部屋に海が落ちていた
魚の姿は見えなかったが
遥か遠くを
タンカーが航行していた
朝のうちは
キッチンの方へと吹く
潮風にあたり
そのように過ごした
午後 ....
象が並んで
観覧車の順番待ちをしていた
みんな休日だった
近くに
錆びたエスカレーターが落ちていた
午後になると
誰も海の話の続きなど
気にしていない様子だった
....
知り合いに似た形の雲が
空に浮かんでいて
その人の名前は
とうに忘れてしまった
ミシン目で切り取られた海が
安売りされている商店街を抜けると
賑やかな駅前に出る
駅前 ....
一面のハーモニカ畑で
郵便ポストが
風に揺れている
記憶を失った大砲の欠片は
小川の水底に涼しく沈み
命は
とても容易い
お互い皺が増えたね
僕らは最近特に
そのよ ....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
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