隙間なく敷き詰められた
ピアノたち
風が吹くと波状になる
泡として消えていく
音という音
装丁された楽譜は
わたしたちの情けない嘘
落葉と同じ速度で動く
メトロノームの側か ....
掌に観覧車
小さなゴンドラを覗くと
四人の家族が納まっている
父も母もまだ若かった
兄も私もまだ幼かった
それがまるで
ずっと続くかのように
ポケットに観覧車をしまう
思い ....
  

自分の手を差し出し
握り返してきたのがタコの手である
という笑い話もあるけれど
もっと簡単に見分ける方法がある
タコに書初めをさせてみればよい
筆を持った部位が手のような気持ちに ....
 
 
冷蔵庫の中から
ぼそ、ぼそ、と
人の呟きが聞こえてきた
扉を開ける
男の人が一人で
魚卵の粒を数えていた
時々、合わない、と言って
また一から数え始める
冷気と暗闇の中で
 ....
 
 
メニューに自分の名前があった
注文すると
同姓同名の別人が出てきた
別人はテーブルに金属製の皿を載せ
上手にその上に座った
目の中を大小の生物が泳ぎ
両耳から波音が漏れてく ....
 
 
コスモス畑の真ん中に
宝くじ売場ができた
カンガルーたちが並んで
順番待ちをしていた
くじを受け取ると
珍しそうに数字を眺めて
皆、帰って行った
大空を飛ぶことなど
すっか ....
 
 
一番星、と空を指差したきみ
その方向を見て
ほんとうだ、と言ったぼく

でもね、あれは嘘だったんだ
見つけられなかったんだよ
だって眼鏡の度が進んでいて
きみの指先を探すだけ ....
 
 
石化する
柔らかな石
心電図の
波形の谷間が
わたしたちの眠るところ
わたしたちの見聞きするところ
わたしたちの対話するところ

/年の瀬も差し迫ったふとしたある日
 一 ....
 
 
指先に砂漠の跡
そして爪という爪、
陽炎に揺らめく廃屋の一群
排水溝を清掃する団体職員、
その煤けた
人は物だから
光に影をつくる
坂上、とだけ書かれた表示板の下に
肉も無 ....
 
 
酢を飲んで 改札口で 待っている


汽車に乗り 行ってみたいな 試着室


犬走る 急行列車を 追いかけて


急行の 窓から見たら 走る犬


試着室 あなたの ....
 
 
無人のブランコが揺れる
温かくても冷たくても
風はいつもものを動かそうとする
ジャングルジムの天辺に登れた人が
みんなから尊敬されていた時もあった
そんなに昔のことではないけれど ....
 
 
蛇口をひねると
小さな雲が出てきました
まだ水を作っている途中でした
水道管の中から
作業中の囁きが聞こえてきます
小さな雲は部屋の中を
ふわふわ移動すると
一滴の雨を降らせ ....
 
 
青い空でした
どこまでも澄んでいました
こちらの方が戸惑うくらいに
名前がありませんでした
形がありませんでした
ありがとう、も
言うことができませんでした
ごめんなさい、と ....
 
 
真水で栞を作っています
本がすっかり乾いてしまったから
水に住む生き物や底に沈む石ころが
あれば良かったのですが
誰に許しを得れば良いのかわからないので
最初から無理な話でした
 ....
 
 
すべての子どもたちが夢や
夢とは違うものを見ている頃
誰もいない教室では
白墨が生徒の名前を
一人一人板書している

名前の下に記されているのは
その生徒にあった今日の出来事 ....
 
 
友だちの家に遊びに行った
門のところで、久しぶり、と挨拶されたので
久しぶり、と答えた
もてなしてくれるのだろうか
和室に案内されて
お茶とお大福を振舞ってくれた
正直な話、あ ....
 
 
バスが山道のカーブを曲がりきれずに
ガードレールと  
摂食した
バスとガードレールが何を食べているのか
ここからはよく見えなかった
ただ黙々と摂食を続けていた
いっしょにバス ....
 
 
隙間から押し寄せる波が
文庫本の栞を
何に使うのだろう
一枚さらって
もとの海に戻っていく

生き物の柔らかな陰影
そのようなものがあると
いつまでも
触れていたくなる
 ....
 
 
病院の待合室で
ヒマワリたちがソファーに並んで
自分の名前が呼ばれるのを待っている
けれどヒマワリたちには
個別の名前が無いので
何時まで経っても呼ばれはしない
ヒマワリは次々 ....
 
 
ブーツを仕分ける
仕分けまくる

 「ブーツの仕分けに関する判断基準」(抄)
  第三条 良いブーツ(以下「良いブーツ」という。)は天国を歩ける
   ブーツとする。
  2  ....
 
 
瞬きが景色をつくる
壁面に反射する光
戻ってくる
街路樹の梢たち
人々の独白は
磁器を数える単位となり
いつまでも終わらないので
扉は貧しい影の所有者となる
そして形はいつ ....
 
歯磨きが終わり
コップを手に取ると
何かのゼリーのような感触がして
指が中へと沈んでいく
そして右手は
コップそのものになってしまう
これから歯ブラシは
左手で持たなければいけない ....
 
 
鞄を探していた
たった一つの鞄だった
大切にしていた鞄だった
心当たりのあるところは
すべて探した
鞄の中も探してみたのに
布製のハンカチや
プラスチック製の文房具など
必 ....
 
 
木に実っていた最後の世界が
その重さに耐え切れず
落ちる
あっ、という誰かの叫びは
空気を震わせることなく
そのまま大気中へと浸透していく
店頭に並んでいた時計の化石を
少年 ....
 
 
冷蔵庫 冷やしたいから 冷やしてる


洗濯機 洗いたいから 洗ってる


右を見て 左を見たら 眠ってる


霜月の 雨に降られて 眠ってる


椅子がある ただ ....
 
  
  
国道のアスファルトを
食べている様子が映像として流れる
「今朝のカバ」のコーナー
テレビの表面はいつも
山奥にある沼のように寂しいので
スイッチを入れれば
色とりどり ....
 
 
人が地下道の階段を下りて行く
地下道の中には
何も無いけれど
ただ、向こう側に行きたい
というだけで
地下道へと下りて行く
やがて階段を上り
再び地上に出たとしても
同じ空 ....
 
 
夕暮れの校庭で
少年が一人
逆上がりの練習をしている
息はすでに上がり
手のマメは破れているけれど
何度も地面を蹴り続けている
成功したところで
得られるものも
失うものも ....
 
 
僕にヒゲが生えていた頃
あなたは優しくヒゲを撫でてくれた。
今ではすっかりヒゲは枯れ
ビルなどの建築物が建ち
唇の近くまで人も歩くようになったけれど。
あなたの手のことはあまり思 ....
 
 
計算ドリルをしていると
首筋に夜明けがやってくる
近くに声の病院があるので
あたり一面、ささやきや独り言が
しん、としている
隣の人が自転車に乗って
仕事場へと向かう様子が見え ....
たもつ(1817)
タイトル カテゴリ Point 日付
船出自由詩511/1/14 22:54
掌観覧車自由詩6+11/1/9 18:16
タコの手自由詩711/1/8 11:19
呟きの夏自由詩311/1/7 6:55
別人の波音自由詩511/1/5 19:15
カンガルーの数字自由詩411/1/4 22:29
指先自由詩411/1/3 19:39
引越し自由詩710/12/31 6:26
風葬自由詩310/12/29 18:41
「本日の五七五」より その二川柳510/12/27 19:40
クリスマス自由詩5*10/12/25 22:10
童話(雲)[group]自由詩610/12/24 13:14
童話(空)[group]自由詩710/12/23 6:21
童話(栞)[group]自由詩410/12/21 20:16
教室というところ自由詩610/12/20 21:52
おもてなし自由詩1110/12/18 18:26
自由詩610/12/16 22:35
帰宅するとき自由詩310/12/14 22:00
ヒマワリ病院自由詩610/12/12 22:32
ブーツ仕分け自由詩210/12/11 15:09
成分分析自由詩310/12/8 23:45
歯磨き自由詩310/12/7 18:11
自由詩210/12/6 19:25
採光自由詩710/12/3 22:53
「本日の五七五」より川柳410/12/2 5:56
モーニングショー自由詩310/12/1 20:11
地下道自由詩210/12/1 6:10
ソーダ水自由詩410/11/29 20:46
僕にヒゲが生えていた頃自由詩8*10/11/28 17:30
口実自由詩410/11/27 11:51

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