高い空から降りてくる
静謐な空気は
体内に残っている熱を
急速に冷ましてくれるので
くちり
と くしゃみ一つが合図となり
人肌恋しい身体を思い出す
広い 広い 運動場
その真ん中に一人
ぽ つん と
体育座りしているような
そんな気分で目覚めると
わたしと
地面との関係性が
垂直であることが辛くて
ひた ひた ひた
足元から順に ....
「はい!あなたの負け!」
突然 耳元で声がしたかと思ったら
なみなみと水をたたえたバケツが
くりーん!とひっくり返ったみたいで
頭の上から遠慮ない勢いの衝撃が降ってきた
ずぶ濡れになった ....
毎月いっこ
巡りあわせが良かったなら
隣で笑っている
この子のような存在になった
かもしれない種が
別れの哀しみよりも
むしろ
邪険な扱いを受けながら
流れてゆく
ジ ジジジ ジジ と
壊れた発条のような音が聞こえる
ああ 夏を謳歌した者
命をくしけずる風に中てられたのだろう
もう次の時間は
始まってしまった
それぞれの季節
その節目に ....
空白が怖いのですよ
ずいぶんと長い間
まわりに何にもない場所に
ぽつん
と 置き去られていた気分だったから
でも
少しずつ好きな色のクレヨンを手に入れて
ぽちり ぽちりと
画用紙を塗り ....
まったくもって
さみしく
一人ぼっちの道程ですので
こうして
毎日 毎日
つー てん
つー てんてん と
ヘンゼルが石を置いたように
言葉を書き置いておるのですよ
いつでもそこへ戻れ ....
命の回転速度が速くなりすぎた夏
季節はわたしだけを残して行き過ぎ
熱を持て余した歯車は少し空回り気味で
もう いいんだよ って
誰かに肩を叩いてもらえるのを待っている
秋の入り口
一
生前葬のようなドクダミの十字架終わって夏開き
*
梅雨の出口 夏の入り口 七色の橋が横切る空
*
「冷やし中華はじめました」で始まる夏もある
*
こ ....
育ちすぎた入道雲と
肌を突き破る陽射し
それに
一向に降り止まない雨になった蝉の声
それらに押しつぶされた脆弱な身体は
不揃いなアスファルト
その隙間を這うように
とろけて流れてゆく夏の ....
腕力と脚力
今はそんなに必要ないかもしれないけれど
地震が起きたり
雷が落ちたり
火事が起きたり
親父が死んだりしたときに
大事な家族を守るため
ちょこっとだけ鍛えておこうと思う母
観覧車で
高く 低く
回っている
ような
メリーゴーランドで
遠く 近く
回っている
ような
そんな錯覚も
ある
けれど
ふと
思い返すと
....
真っ直ぐに
うつむいてしまえる時はいいのです
泣き出しそうな顔を見られずにすみますから
だけど
斜め下を向くしかない時
これは哀しくて切なくて
切なくて 仕方がありません
あなた ....
満ち足りた水盆から
たっぷりと
手のひらのうつわに水を汲み
満足しても つかの間
した した と
水は指のすき間から逃げてゆく
目の前を行き過ぎる
季節もまた
水盆から汲み上げた水 ....
生きるために
命をいただく とは
こういうことか
無心で
はらぼての小魚に食らいつく
わが子の風景を眺めながら
しみじみ 思った
むかーし むかしの頃から続いている
どうしようもなく
機械的なこの営みは
痛みをかくして
笑っているようであります
健やかな苗木を育むため と
頭ではわかっているのです
だけど ここ ....
かえるがなくから かーえろ
夕暮れあぜ道 帰り道
日なたのにおいと土のにおい
からだにまとって
家路を走る
きょうはたのしかったね
あっという間の
夢みたいな一日は
ま ....
空ばかり見上げている君の足元はおぼつかない
足元ばかり見つめているわたしの空はさびしい
だから
一緒に歩こう
そしたらまあるくなれるから
体温が交じり合って
境界線がなくなって
二人が一つになって
古い輪郭線がほどけてゆく
まっすぐに
まっすぐ に
はじめのうちの
まろん とした舌ざわりに
ついつい
身もこころもゆるしてしまいがちですが
気を付けていないと突然
鋭い刃で襲われることもあります
甘いだけが性分ではないのですから
お ....
だから「それ」は
わたしになりました
*
選ばれなかったから残った
と 言うのは
選ばれた
と 言うよりも
5センチほど
ほんのりさみしくて かなしい
だけど
選ば ....
ペールオレンジ って
言い換えてみても
結局
肝心なところは置いてけぼりでしょ
そんなの
ちゃんちゃらおかしくって
反吐が出そう。
マリンスノーがよく見えるあたりの海底で
お腹の膨らんだ妊婦みたいにこう シムスの体位で横たわって
プランクトンの死骸が積もりゆく音や
深海の常闇から伝わる冷えた音を聞きながらまどろみたい
....
あなたは ふらり
何の気なしに
立ち寄った旅人のようですね
来訪が嬉しくて 嬉しくて
こころからおもてなしするのですけど
ずっと ここに留まってはくれず
また ふらり
どこかへと旅立 ....
まぁやぁ 赤ちゃんて
こんな ちぃせぇもんじゃったけぇなぁ
玄孫の姿を
光の乏しくなった瞳でとらえ
しわだけの顔になって
ひいばあちゃんは言った
そして もう一度
同じ言葉を繰り返してか ....
真冬の公園ベンチにひとり
冷蔵品のように座っていた
と 鈍色の空に
クカカカ
声が響いた
鳥だ 近くに鳥がいる
思いがけず嬉しくなり
そちらを見やると
熱を帯びた視線に驚 ....
これからますます秋は深まり
静謐さを増してゆくというのに
その静けさに耐えうるだけの
こころ と からだ を
まだ手に入れていないというのに
午後に被さる日差しは無音の波紋を響かせ ....
寒さが身体に凍みわたる頃になりますと
不思議と故郷を思い出します
わたしがそこで過ごした十八回の冬は
どれも特別に寒くはありませんでしたが
むかし むかしは雪が深い
それが当たり前だった土地 ....
どこまでも続くかのような
朱に覆われた道を歩み進むうち
母の胎内から生まれいずるような
新しく生まれ直せるような
そんな心持ちになりましたが
かあさん
一度 生まれたわたし は
....
深紫のマニキュア塗って
夜を部屋に呼び込もう
ここにも ほら
お前のカケラが居るんだぞ って
窓から両手ひらひらさせて
夜を部屋に呼び込もう
一人きりでも淋しくないよう
深紫のマ ....
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