おとうさん、
首をひねるたびに
うわごとみたいに
「痛いっ」、「痛いっ」っていうの
がなんでか、なんでなおらないのか、よくわかりません、
ほんとうにいたいときしかそういうこと、くちにださない ....
からだじゅうが
水ぶくれ
じんわり
なおってゆくための
たいせつな液体でまもられる
ありがたいこのからだ
快復しようとする
おぎなって力すべてあつめて
どうにかして
いきよう ....
線をひく
二本の
それはノートからはみだして
線路のように
のびてゆく
そこからさきは
やめなさいとだけいわれるところ
だが二本の線は
平行をつづけてしまう
だれかが ....
雲がうごいて
その子の足の下に
影がやどった
その影に
モーツァルトの顔が
透けてみえるのだが
彼は影にだけ気づいていて
自分をのみこむ大きな影にだけ
気づいていて
無垢 ....
わたしが
どうしても我慢できなくて
でも、教室には絶対間に合わないし
歩道に面していくつか並んだ
車庫の一番奥に勝手にはいって
おしっこしたって
話したら
妹はそこで、ひとり、
....
(ベートーヴェン
最後の弦楽四重奏曲、第十六番
三楽章によせて)
土にもどったといったところで
だれも
これがあのやわらかな若葉だったと
気づくものはいない
虫の寝床となりな ....
自分の
息づかいばかり
きこえてくるのに
きづいて
顔をあげると
音がなくなっていた
音のかわりに
白い沈黙が
すべてを覆い尽くそうとしていた
柵なんて
あってもなくても
いっしょ
真下は
みないの
遠く
広がるものだけ
高みを吹く風は
乾いていて
梳いてゆく
大きな
大きな
櫛の目で
こころ
なぶ ....
夕暮れのきいろは
ゆれる
ドレス
ドレープ
みえないまま
つめたく
とりこんで
さそうよ
あちらへ
あらがえ
あなた
みもと
こちらへ
おいておくためには
冷え ....
風に
揺られる
けして
折れることはなく
風に揺られる
しなって
しなって
狂ったみたいに
しなって
風のないとき
やわらかな光に
輝けば
大昔から伝わる
....
ただ、ひとつの線
そのさきの
きわみ
静けさ
甘みを増してくる
過剰なざわめきに
鈍い、だが長い
痛みに
蓄積されたのち
放たれる
腐臭に
耐えつづけるこ ....
ノート
忘れられた言葉
終わりもみつけられずに
さまよったまま
静かに痛んでゆく紙のうえで
呼吸をつづけている
あのひとの、
いつかひらめいた
あのひと ....
バスがでようとしている
うしろすがたを
ささげて
僕は
残されて
今年もまた
気づいている
光まばゆくとも
秋のにおい
幼い秋の朝の
つめたさ
かぎられたあいだの ....
ブランコを
こぎもせず
僕はからだを
そこにあずけて
僕の腕
長く
細く
白く
地面にたれて
歓声は
そばにあったのに
すごく
遠くできこえていた
僕は沈んでゆく ....
胸いっぱいの誉れのためにも
きこえないふりを
しなくてはならないが
よけいきこえてくるので
いたたまれなくなる
逃げ出しなんかしない
涙もださない
汗すらださない
靴底を地に押 ....
秋、
そのつぎの
ひめくり
菱形がつらなって
つかめない
光のドロップ
ひらきっぱなしの
本の表面に
ゆらめいて
今
今が
かたむいてゆく
われの混沌に
あすが枕木をならべてゆく
その果てが
もはや青白い喜びに満ちていても
よいか
ねむりよ
まだここに
われをいかしておいてほしい
いくえにも
かさなった
ゆらぎ
輪をかいて
后は
たおれる
フラッシュに焼かれ
切り花が飛び散って
できるなら
このまま
目覚めたくないと
願っても
民が呼ぶ
夢 ....
君なら
しっているよね
赤い鳥居をくぐるごとに
空気
ひんやりしてゆくこと
しっているよね
お城の石垣にのぼる理由
そこから落ちるときの
一瞬の長さ
しっているよね
....
いまごろ
どこに
浮いているか
風をつかむよう
指をひろげても
空をきるばかり
なにかとすり替えられたわけでも
なかろうに・・・
見事に
はたされない
急にうしろか ....
光るので
突進してゆく
自分だとは
しらないまま
力いっぱい
よびかける
世界はまだひとつも
分断されていない
ただ
そこに
あるがまま
あるがままで
もう、すっかり
昨日とちがう
風
まだ背中が熱いのに
太鼓の音が耳に
こびりついているのに
黄色い法被の色が
ちかちかするのに
そんなふうに
頬を冷たく
なぜてゆかない ....
オルガンはもっと
びろびろならなければ
びろびろなって たいへんびろびろ
ひきかえせないびろびろ
どこまで、も、あつく
きっついきっつい
夏がみえたら
はまりにゆける
(もうち ....
錯覚をかさねて
すすんできた
そして、またしても
錯覚
たぶん、どこにもたどりつけない
だがふりかえって、
遠く、残してきた
いくつもの分身に
ほほえみかけることならできる
....
未来!
僕の足音が
きこえるか?
きみのいるところまで
未来!
なりふりかまわず
接近してゆくから
けして待たなくていい
全速力で
かっとばしていてくれ
いつか
僕がきみ ....
思いがけず強い力で押され
はっとする
そして君は自分にとまどっている
そんなふうに
わたしがよろめくとは
思ってもみなかったのだ
どこからわいてくるのか
その力は
どこへいったのか ....
自慢話のかげには
いっぱいの不安
自慢話は確かでない
つかのまの
幸福への
祈りの言葉
あるいは
かつてはあったはずの
幸福への
なげき
だから
きいてあげるふりくらい
な ....
ちいさい声で
すごく大事なことを
いう
おおきい声では
いえないことを
いう
声の芯は
おもいのほか
しっかりしていて
おおきな声が
いくら
邪魔しようとしても
伝わってくる
....
私たちが校舎で出会うのは
おばけなんかじゃない
それは
だれかの通り過ぎていったあと
だれかの
いちばん子供だったときの
いちばん光に満ちた
いちばん軽やかな
いちばん無防備な歩み
....
わたしは生まれてはじめて
暗い海の上を帰ってきた
海は、波は、そのたえまないざわめきは
常に舟をとりかこみ
あたりまえのようでありながら
のぞきこむと
そのたびに
あまりにも
おそろし ....
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