かの女は脳天気
ときどき夜遅く、酔っ払って帰宅し
ねむけ眼の娘のまえで歌を歌い、そして
だれよりも早くねむる
ときどき大いびきをかきながら
かの女はおこりっぽい
かの女は平気で娘のまえ ....
母親の帰りがおそい夜、
少女は窓辺により、布団のなかから星をながめる
星を見ていると、自分の気持ちと向き合えた
なぜだか、星が
悲しそうに泣いているように思えるときがある
彼女は星座の名 ....
風の強い日
クモの脳裏に観念が降りた日、
クモは木の葉のうえで
円を描くおまじないのあと
糸をのばし、糸を風にのせ
空を高く上ってゆく。
クモは流れる雲のうえで
海をわたり、山脈をこ ....
スコープのさきに
わたしは詩をとらえた。
詩は、スコープのなかで揺らぎつづける。
狙いはさだまらず、
わたしは引き金を引けない。
わたしが躊躇うあいだに
詩の精は、スコー ....
海は 生きるために波をくりかえす
よせ、また返す 海の呼吸
だれもいない浜辺に来て、海と握手をしよう
とおく外洋の果てから 友をもとめて
手をさしのべてくる
この大きな、大きな生き物 ....
わたしの舟は
海の波間に浮き、しずみ
しみいる海水を 手おけで
くみだし、海原をわたってゆく
舟に名前をつけようという
シャレた気持ちもとうになくし
それでも、
「オマエハダレゾ? ....
かれらは実体のない闇を
ハーレーにまたがり、疾駆するライダー
おのれの直感を信じ
自由を標榜し、暗い闇を疾駆する
ときに、みずからを絶望のふちに落とし
ときに、沸きあがる激情のままに
....
地球が月の重さを感じているように
月は地球の重さを感じている
宇宙のなかにシンクロする永遠の愛
重力の腕のなかに抱擁する、一対の天体
いつか、地球は
太古の昔、恐竜を絶滅させたように ....
ゴミ集積所に、おにぎりのかけら
落ちていたごちそう。
いちばん最初にすずめが見つけた。
2、3羽やってきて、米粒をひろう。
そこに、あらたな来訪者。
1羽のカラス。おにぎりの近くに降り立 ....
ぼくの家の庭には古い井戸がある。むかしは豊かな水が湧き出し、たまには幽霊というオツなものも出たらしいけど、いまではさっぱり。水も出ない。そんな井戸がなぜ残っているのかというと、曾曾おばあちゃんのありが ....
桜の木のしたに
うたげの輪をつくり
あちらでも、こちらでも
春のうたげは真っ盛り。
桜の木が、うかれて
お酒を飲みすぎて
くしゃみをする。
パッと
桜吹雪が舞い
うたげの輪が盛り ....
桜とれんげと菜の花が手を組んだ
別に、だれかと戦争を起こそうという
キナ臭い考えからではなく
隣のミオちゃんを元気づけるために
ミオちゃんは今年で八つ
ミオちゃんは生まれつきからだが弱い ....
「おかあさん、そとがさわがしいね。
「冬と春がおすもうをとっているのよ。
「ふーん、どっちがつよいの?
「そうね。
まだ寒いから、冬のおすもうさんかな。
でも、さいごは冬のおすもうさんは ....
いつもぼくの頭の中では
警報が鳴りっぱなし
いつもぼくの前には
抜き身の刀をもった辻斬りが立ちふさがっている。
日常の些細な事ごとに神経をすり減らし
表の顔では平然をよそおう。
家に引 ....
あれは土星です
あれは金星です
あれは三日月。
東の空、地平線の近くに
水星が太陽に寄りそっています、
地平線の下にしぶる太陽を手招きしています。
太陽が顔を出すまえの
冬の朝の ....
彼女は完璧だった。
すべての試合をストレートでくだし、決勝に勝ちあがった。
決勝の試合―
順当に相手のサービスゲームをブレイクし、
ファーストセットをリードする。
しかし、第8ゲーム彼女のサ ....
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