枝分かれした樹木に、自転車のサドルがのっかっている。
 とある駅前の手狭な広場だった。樹木が二本あった。駅側は桜、道路側はたぶん楠。サドル仕様になっていたのは、楠のほうだった。二つに ....
 


 夕暮れどきの港。
 偏光グラスが西日に反射する。その中年男性は、釣り人である。通り過ぎたとき、私に声を掛けてきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 私も応じる。「釣れましたか ....
「酒たばこシンナー遊びは身の破滅」
 いきなり飛び込んでくる。誰も見向きもしなくなった看板だが、私にはぐっと来た。
 交差点、ちょっとしたバスの待合所がある。何度も通った道にも関わらず ....
「誠に勝手ながら…」
 とくれば、こう続くのが世の倣いである。
「○○日と○○日は、お休みさせて頂きます」
 大型連休、盆休み、正月の他、不定期で休むときなどにも、よく見かける。こん ....
 前方から、二台の自転車がやってきた。幼い女の子と母親である。ときにハンドルをくねらせ、お気に入りのアニメソングさえ、聞こえてきそうである。女の子は自転車に夢中だった。その後ろに母親。ごくあ ....  

 遠い河口で
 無数の鯔が
 跳ねるとき


 駅はもみくちゃ
 快速列車が
 一掃した後


 ただ一人
 残った婦人が
 ベンチ横で
 旅行鞄を下ろす


 ....
11月の珍しい雨
暖かく 枯れ葉は勇み足
駅からの小道
うたを忘れた
鞄の少女は
傘も持たず 泣いていた



両手は鞄でふさがり
ブラウスの肩は
濡れはじめる
錆ついた歩 ....
波止場をうろつく
足のない鳩は 足を探している
飛べないで 地面を這いずり回ってる
誰かが残したパン屑のそばを
一心不乱に 突っついていた



ダッカ行きの貨物船が
停 ....
製本工場に着くと
まず掲示板の自分の名札を見た。
忙しい時期は学生のバイトのやつらが
掲示板の前に群がった。
若い女の声と声。


キムラって誰。話したこともないよ。
どう ....
バスに乗ってたら
13番目のバス停で
ある男が乗ってきて
いちばん前の
広がる窓の席に座った


明るい緑の
Tシャツと
三本ラインの入った
黒のジャージ
靴下の足は ....
三人の男が横に並んで
箱の中の小冊子の数をかぞえてる


いち、に、さん
バイトの女子高生が
早退してお疲れさまでしたと
言ってるのも聞こえなかった


短気な老人が社 ....
  ああ おれはこわれた
   二丁目の角で 
 月見うどんすする スーン
 鉄格子のなかから するどいめだま
 おりまげたひざのうらには ぶっとい静脈
  にわとりのしずく 
  ....
 
 本日、バック転日和。池谷幸雄は今頃なにをしてるかどうか、という問いに答えるのは、簡単だ。
 バック転をしている。相変わらず。月でもいい週でもいい、大阪人がタコ焼きをほうばる回数より多くバ ....
 誰もいない土手に座って 動かないブルドーザーを見てる
 雨が降ったのはもう何日も前 消えない水たまりを
 車輪のついた風が駆け抜ける


 人がいないのはこの一瞬だけ まばたきをすれば
 ....
 壁に咲く花を見落としても
 私は死なない
 

 夏は確かにあった
 冷蔵庫の置きすぎた麦茶からは
 想像もできない


 どこか
 ダムの底に消えた役場のよ ....
   

  


 頭から血を流して
 倒れていた
 浮浪者が
 男に頭を蹴り上げられていた
 もう前から何度も
 繰り返されていた
 男の後ろ足は
 後ろに大きく反り返った ....
 キリンの頭の上から飛び降りて
 勇気をもっておやつの時間にした
 ねむってるあの娘をむりに起こさない 
 時計の針はからまって
 かわいいビスケットの形をしている

 ....
 午前一時 机に肘ついて 見えない国道を眺める
 建物の奥には陰険がある そして街中にもそれはあった
 ブランコをこいでるときに 
 どこか知らないとこへ飛んでしまうおそれなんか抱かなか ....
 



 顎から溶けだしてゆく蟻を見ながら 
 ベランダから落ちる植木鉢のスピードを思う
 目隠しの観覧車から 行方不明の子供が 助けを求めてる
 クラムチャウダーをかき混ぜるより簡単 ....
 網戸のサッシの上 けだものの目で睨んでいたのは、夜の月だった
 起き上がって見上げる それほど高くない場所で
 私とにらみ合いをしている
 背中にへばりついた安物のTシャツをつまんで 惰性 ....
 急ぐ足はコンクリートで固めて 消防車が来るより早く根を下ろす
 崩れ落ちて 天を仰ぎ見た 背もたれは腐って 朽ち果てていた
 火曜日の夜は 国道の渋滞で行き先を見失った
 コンビニ ....
つぎはぎだらけのオニオンパイ
心に何もなくても 白紙があるから 散乱しても
おもちゃの劇のように 一晩かけて作ったおもちゃのお城を壊すだけ
這いつくばった地面のひび割れとともに  ....
カーテンの後ろに隠れている 風が吹いたときだけ 姿を見せる
か細い足元は少しだけピンク色
潮の匂いと、街の喧騒が混じってる
恥ずかしそうに林檎をかじってる なるべく音をたてないように ....
せつな過ぎて 街灯に浮かんで逃げる自分の影に泣けてくる
おれが移動すればおれの影も動く
泣いてても笑ってても 影の表情や温度は変わらん
光の帯となって過ぎ去ってゆく特急列車の通過
おれは野菜と ....
 黄色く塗られたカラスが
 朝のバスに轢かれ
 夜のバスにも轢かれた


 親がつけた
 火事のなかで
 こどもたちは遊び
 眠る


 道端に転がる
 ひび割 ....
 
 踏み切りを待つおれはばつの悪い思いをしている
 おれは焼酎の入ったスーパーの袋を提げている
 おれの後ろには車の列が何台か続いて
 犯罪者を追跡して喜ぶ公僕のように
 執拗 ....
  ショートカットして 編集される 僕の心臓の位置が間違ってる
  僕は警告を鳴らす マクドナルドの店員のような笑顔で
  白い黒板に向かって 正しい位置はここだと
  工場で作 ....
  蛸壺の中で何人も嫌味を言い合っている 煙で見えなくした無表情の顔で

  三秒間で繰り出した言葉が 何人もの内臓をえぐり 来世さえ摘み取ってゆく

  知らない顔も知ってる顔も ホッチキス ....
 虫の息で、僕は一杯の水をねだる
 動物たちは再び化石になって燃料にされる
 土に埋まった僕らの祖先の骨から、 マヨネーズの成分が検出される
 僕らの笑顔は、教室の後ろに貼られたできそこ ....
  

 ターテンは
 両足が不自由で
 下半身と両腕に
 ギプスのような器械を
 つけていた
 本名の達野公彦と呼ぶ者は
 誰もいなかった
 みんな彼をターテンと呼んだ
 ....
カンチェルスキス(260)
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