雨傘よりも強く僕たちを刺戟するのは、
天よりも高い靴の響きである。
靴は沼地に奥深く喰いかかり、
森のなかは蛍の楽園を造形した。
知性は愚鈍の中に埋没し、
風はそれを助長した罪に ....
風の音とともに影の色は消え去り、
晴れた空の上を飛行機の音が鳴り響く、
口癖のように聴こえる夢の楽園、
抽象画の懐かしい響き、
おお つまらないむかしの戯言、
残骸はやかましく騒ぎ立て、
....
秋が咲いた 秋が咲いた
どの花よりもうつくしい秋が咲いた
春まいたたねがみのった
かわいい小粒のちいさなたねが
みのった みのった
かなしみの
さてこの気さえ狂わさん
く ....
外灯のない家路を辿っていると、ある家の玄関にひとりの女の黒い影が見えた。
それは私に手を振って、投げキスを数度した。
だがそれは幻だった。ただ壁に絡まった蔦をむしっているのにちがいなかった。 ....
さて君の心のうちは傷になるほどよくわかったが、
それでも君は奪えまい
その匂いと
ふたつの瞳
君のこしらえた憶い出は
思い出すほど麗しい
そして君にはおぞましい
晩年 ....
花が絶えたら 私は思う
私は幾日 生きたかしらと
北風が灯を消すように
闇が私を連れてった
雨が花びら流すように
夜が私を連れてった
こうして街の橋げたの
隅で花売る娘の ....
行け その細い径を通って
白銀の雨のふる 森のなか
あたらしい宝物の絡み合う蔓植物の
つまらない詩句の鎖を見て来い。
案外つまらない
つまらないものなのだ
それゆえに ....
悲劇を楽しく踊りましょう
みなで薪を取り囲み
すると火は
あなたの服に引火する
あなたの悩みが燃え上がる
それでもあなたは平気そう
悲劇とはこんなものだと
あなた ....
雨の中
夕暮れが
顔出した
さようなら
こんにちは
ごきげんよう
微笑の夕暮れ、
万歳!
薬の臭気が私の鼻をつまむ
私は奇怪な妄想に胸ふくらます
青空! 空はあおい
そのもとに灰色の飛行船が飛び交う
私の脳味噌の断片
爆発した心臓の破片
鮮やかな紅の紙吹雪が
....
僕の詩は、青い壺の中にある
壺は青く、眠れない。
眠りのためなら
この腕をもぎ取り、
(―さながらレモンのように)
真っ赤に浸してしまいたい。
美味いカクテル 女向 ....
光に飢えて
死んだ薔薇。
僕の{ルビ瞳=め}は唖になった。
食卓に赤い{ルビ染点=しみ}
ところどころに、
あの 暗い日の 思い出が
甦る。
ああ、与えてよ ....
夜風さすらう夕暮れに
秋はひとりで花を買う
辞書は窓辺でつまみ喰い
寂しさに 疲れあぐねて・・・
花篭は からげのままに
草わけて 進みゆく歩哨兵
やがて時計の喇叭 ....
あと四年若かったら、
僕は碇になって、港に沈んでいるだろう。
船をしっかり支えながら
壮大な出航式を待っただろう。
それはおだやかな海を渡って、
詩人という島まで、のんびり旅を ....
詩が何処へ誘うというのか、
行きつく処といえば、せいぜい
薔薇の砂か 酒瓶の底だろう
私達はいま この安宿で
たしかに褥のうえに居る
そうして眠る、嘘つきながら
夜 ....
灰色の空を{ルビ背景=うしろ}に
黒い背広を着た男、
街燈の、直立不動の寂しさに、
北風に、灯は揺れる・・・・・・・その昔、
この道を{ルビ通=かよ}った男が
そこに見た嘘の女を
....
雨よりも痛い針がある。
夜よりも鋭い刃物がある。
憂鬱が、
僕の胸を刺す。
時計が十時の鐘を打つ。
今日、僕は眠った。
やさしい人は、
誰も、どこにもいない。
暗い夜中と散歩した
あの思い出は忘れまい
空に一羽の白鳥が飛んでいた
躊躇うな、―やっていいんだ
機会は魂のなかに訪れる
うら若い{ルビ紳士=・・}の中におとずれる
....
蓮の隙から顔出した白鳥は
あてもなく
よすがもなくて
海の{ルビ底=そこへ}へ沈んでいった。
僕は窓からそれを見ていた。
暗い夕暮れの間奏曲、
こんどは死が
僕を覗い ....
降れば泣き濡れる弱虫の彼女は
大雨の通知表に耐えられない。―
リッツのヴァイオリン弾きの彼女、
今日も目を反らし、聴かせてくれる。
黒い雨傘は、これは僕のためのものだ。
太陽の灯を消そう、
吹き消そう、
すると見えてくる
難解な文字や数字を窓から棄げて、
生まれくる冬の寒さが。
仄白い僕の心のなめらかさ―
太陽は嘘をついた。
それゆえに巡 ....
私は赤い太陽をみた
それは
戦場か
酩酊か
醒めたくも
醒めやらぬ憂鬱の眠りのなかだった。
それは
文字どおり赤く巷を照らしていた。
神々しい輝き、
それゆえに街 ....
私の胸に埋ずもれる
ちいさな4つのシュークリーム
背中とてっぺんのこげた桃色
・・・・・・・・・・・・・・・・・
それが机の上にある。
コーヒーと
マッチと
葉巻。
....
今日もまた日は西より出で東へ沈み
私の憶い出は汚れた鉄格子の窓を進む。
雲を破る白い太陽の光は
さびしく僕の感傷をあぶり出す。
この部屋に居る僕の心を
広場の噴水に残された少女の ....
手巻き時計のする音は、
さながら大きな砂時計。
砂はおのおの苦しみながら、
海の底へと落ちてゆく。
そこは奈落か、天国か?
おまえに聞いても分かるまい。
....
道すがら、死体に出会う。
何か不思議なことがありそうだ。
虫どもの蝟集して、離散する
万華鏡。
夏の大気は、夕暮れの香水。
その{ルビ路傍=ミチバタ}のあかい華。
....
雨が私らを嘆かせる。
つまらぬ遊びにあけ暮れて、
消えた灯たちは私らの思い出に
幾重にも滲んで映る、
明日も
明後日もない、
今日こそは優雅に雨は
私らの心に引火す ....
詩から詩へ
嘘から嘘へ跨る騎手よ
赤い玉の降りて花咲く日曜日
快楽は天に輝くよ!
汝が股の下
海の底深くにある真珠こそ
暗き夜に沈める宝、
死して ....
夢のような 心軽さで
私は窓辺にたっていた
黄色い{ルビ灯=あかり}が漏れていた
やみがたい 私の心のすき間から
疲れた{ルビ貴女=あなた}のしぐさのひとつひとつが、
....
白い鳩
{ルビ貴女=あなた}の首のしなやかさ
円柱を飾る髪の毛が 池のほとりで、
緑の{ルビ水面=みなも}に 映えては、揺れる
くろぐろと
おまえの胸を 見せびらかせる
....
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