人間の骨が
画材に使われる様になって久しい


『心臓の一番近くで』


熱を通さずに
生肉を介して
摂取した骨を
分解しやすくなるように加工して
スズリで水に溶くと
白濁とし ....
恥ずかしいことに
世界がこんなに醜いなんて知ったのは
長いこと生きてからで
そんなことも感じず
のうのうと
幸福で腹を満たし
偽善で呼吸し
精錬潔白を詠っていた

自分が
一番醜い ....
最近の紙ってのは
紙じゃないね
ケント紙だとかルーズリーフだとか
下らない
にじまない紙の何処が紙だというんだ

紙はね

にじんでこそ紙の価値が問われるのさ
とく ....
我が家には
幼馴染の家蜘蛛がいる
子供の頃から一緒なので
年齢は私よりも年上なのだろうが
1.5cmの小さな蜘蛛だ
気が向けば晩酌くらいはする
私と蜘蛛はそんな仲だ


『夜雪酒』
 ....
それでも止めないのは
あの一言のおかげだと思っている


『最期の写真家』


気付いたのは
老夫婦の写真を撮った時だった


仲の良い夫婦で
金婚式の記念にと
シャッターを ....
{ルビ梔子=くちなし}の満開の下へは
決して近寄ってはいけない



『クチナシの木の満開の下』




子が出来ぬ
という理由で離縁された女は
梔子の花しか食べられなくなった ....
貴方ともう一度だけ

最後に



ワルツを




『最後にワルツを』


教師生活で
一番長く努めた
其の学校の廃校が決まったのは
年の瀬を過ぎてすぐだった

 ....
其の純白が
花嫁衣装の様だった


『純白般若』


祖母は
小さい頃に
骨を食べたという


焼け野原になった当時
ろくな薬も無いなか
人間の骨は万病の薬だ
という噂が ....
むかしむかし

   {引用=(少し長く眠りたいんだ)}

めでたしめでたしにはなりません



『姫君と王子』



その日の姫君は
黒いシックな
ショートドレスに
本 ....
彼は鉛色の鞄
白いカンパスに
12色のアクリル絵の具
一本の筆で
いつも
橋の上で絵を描いていた


『葬式写真描き』


ソコは私の昼寝スポットで
よく鉢合わせをした
たか ....
今夜は酷い夜霧だ
むやみやたらに出歩くと
街の真中で遭難してしまいますよ
旦那
今日の所は

この常夜灯の下で
霧宿りいたしましょうよ



『常夜灯の下で』 ―銀の夜を溶かして ....
我が家にはじいやがいる
じいやの名前は長谷川という


『長谷川のこと』


長谷川は今年で82になる
大正の殆ど終わりに産まれて
人生の殆どは昭和に飲み込まれ
青春の殆どを戦争に ....
献血に行ったら
貴方の血は夕焼けなので
輸血用には使えません

断られたことがある

16歳の頃の話だ


『血液奇談』


今は何の因果か
私は血液職員として献血車に乗り ....
{引用=リトル・ミスに出会った}

*********************************************************************


{引用=彼 ....
それでも

女の人が
涙ごとに流す{ルビ睫毛=まつげ}は
蝶々になるのですよ




『睫毛蝶々』


祖母の形見の化粧箱は
真っ赤な朱友禅に金糸の菊
中には小さい鏡もはめ ....
商店街の呉服屋には
座敷わらしが出るんだ


『呉服屋の座敷わらし』


何年も前
近所の商店街は
七夕が近づくと
ささやかながら華やいでいた


電燈の高い所に
白と桃色 ....
金色の海で
私は上手く笑えていただろうか


『金色の海で』


郵便受けに
見なれない封筒が入っていた
差出人は
失踪した親友からだった


彼は
一年前に妻子を亡くし
 ....
【K】キスで道連れだった
初めてのキスは初恋の君
風味はアーモンドで
香ばしく甘酸っぱく
それでいて涙がでるほど切なかった
あの香りはムースポッキーのせいだと記憶してるけど
本当はどうだっ ....
目の中に星屑がはいりました
ゴロゴロしてとても痛いのですが
暗闇の中でも
世界は輝いて見える様になりました


口の中に空が落ちてきました
舌の上で確かめた其の味覚が
あまりにも蒼いも ....
【睫毛の先】

もう
恋なんぞしない
と思って泣き続けたら
はらはらと
睫毛が残らず抜けてしまった

恋は
睫毛の先に止まるという


以来恋をしたことは無い


【 ....
写真を撮り始めたのは
去年の二月のことだ
私の仕事は
月の表面を映し
氷があるかどうか確かめること


私は
しがない月探査機だ



『優秀の湖に眠る』


物心がつい ....
『未亡人』
という呼ばれ方を嫌った叔母は
高飛車な懐古主義のロマンチストで
まだ幼かった私に

{ルビ刀自=とじ}

と呼ぶように教え込んだ


『{ルビ刀自=とじ}の刃』

 ....
6歳の頃
初めてりんご飴を買ってもらった
食べるまで
りんご飴は
ケン玉の赤玉でできている と思ってたので
甘くて柔らかいから吃驚した


7歳の頃
初めて金魚すくいに成功した
ふ ....
【壱】

梅雨が開ける前に

雨の一本一本を捕えて
君に贈る
つけ睫毛を作りたい
雨の繊維は透明で見えないが
縁取られる君の瞳が
香り立つ水分で
もっと
いっそう
潤んで見えて ....
旅先で
必ず訪れる旅館があって
其の庭には
花をつけない
見事な桜が佇んでいた



  花をつけないのは
  私のせいなんですよ



其処の女将は笑う


彼女は ....
オールトの雲:オランダの天文学者オールトが提唱した、彗星の巣・領域


『オールトの歌』



最愛の娘へ


作りかけの宇宙ステーションからこんばんは
もうそっちはオハヨウの時 ....
正式な演劇用語なのか知らないが、
私の属している演劇集団では『プラネタリウム』という言葉がある。


『プラネタリウム』


劇中で一番事故が起こりやすいのが暗転中だ。
劇の始 ....
初めて指輪を贈った人は
彼女ではなくて
母だった


『ビューティフル・リング』



僕は7歳で
母に連れられて
縁日の夜店を廻っていた
ふと
屋台に並んだ
ガラス玉の指 ....
家の近所に教会があった

私はクリスチャンでは無かったけれど
教会の牧師先生が面白い人で
何故かよく入り浸っていた


教会といっても
見た目は古い日本家屋で
家の一部を改築してでき ....
夜が明ければ夢の後
大人の世界に
ピーター・パンはもう来ない



『さよならネバーランド』



開け放した窓が
梅雨晴れの日光を引っ張っている


家具を無くした部屋は ....
蒸発王(128)
タイトル カテゴリ Point 日付
心臓の一番近くで自由詩10*07/2/8 19:16
義眼の彼岸花自由詩6*07/2/1 20:50
或る紙すき職人の遺言自由詩10*07/2/1 19:05
夜雪酒自由詩8*07/1/23 22:06
最期の写真家自由詩8*07/1/16 21:01
クチナシの木の満開の下[group]自由詩11*07/1/15 20:16
最後にワルツを自由詩12*07/1/10 20:17
純白般若[group]自由詩14*07/1/7 20:30
姫と王子自由詩5*07/1/1 20:57
葬式写真描き自由詩3*06/12/31 23:39
常夜灯の下で  銀の夜を溶かして自由詩7*06/12/26 20:11
長谷川のこと自由詩10*06/12/21 20:35
血液奇談[group]自由詩14*06/12/19 21:41
グッバイ ミセス自由詩4*06/12/18 22:31
睫毛蝶々[group]自由詩5*06/12/18 19:12
呉服屋の座敷わらし自由詩6*06/12/16 2:35
金色の海で自由詩8*06/12/16 0:33
青酸カリ自由詩6*06/12/12 23:14
隙間の中に自由詩9*06/12/12 21:52
もうしません自由詩5*06/10/16 23:52
優秀の湖に眠る自由詩7*06/9/2 23:04
刀自の刃[group]自由詩7*06/8/30 21:02
夜店談話[group]自由詩9*06/8/6 22:08
梅雨が明ける前に自由詩1*06/7/20 22:14
何度目かの遺言自由詩10*06/7/17 21:49
オールトの歌自由詩4*06/7/3 23:04
プラネタリウム散文(批評 ...3+*06/6/29 0:15
ビューティフル・リング自由詩5*06/6/26 23:31
アジサイの羽自由詩4*06/6/22 19:54
さよならネバーランド自由詩5*06/6/22 0:19

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