夏休みにしか帰らない
実家の銭湯には
青い富士山の変わりに
緑のペンキが色あせ
ボロボロに古びた
一匹の龍の壁画が
どん と
風呂場一面を支配している
田舎のせいか
夏場 ....
眠りの国の君は
きっととても美しいのでしょう
けれど
其れが見れなくて
私はとても哀しいのです
君の伏せられた瞼の裏
封じられた瞳の色は
平生の黒ではなくて
もっと
緑と ....
重くなる背に
無鉄砲の銃声がこだましていた
いつまでもいつまでも
彼の銃声はこだましていた
『無鉄砲の銃声』
僕と彼は幼馴染だった
自己紹介カードの趣味の欄に
『無鉄 ....
********
『もしも私が死んだなら』
『心臓は息子に』
『両腕は娘に』
『薬指は妻に』
『唇を弟に』
『耳を妹に』
『そして』
『彼女に』
....
空気は夏色に染まり
空の青さにも透明が混じると
今年も
『カミナリ玉』
がハシリの時期になった
深緑に走る
黒い稲妻が
球体になって
八百屋に並ぶ
値段は詐欺 ....
木蓮の花が咲いたら
私を呼んで下さい
何時でも構いません
場所も問いません
私を呼んで下さい
【声】
風の音で名前を呼ばれてた気がして
見上げてしまい ....
冬になると
海水が凍って
氷の白い泥が海に溜まる
その中で薄くはった
産まれたばかりの流氷は
波の寝返りにあっさりと壊され
お互いを削りあい
まるで蓮の葉のような
角の取れた丸い薄い氷 ....
プラネット・ラダー12番地へようこそ
新しい入居者の方ですね
本アパートの管理人です
お部屋まで見送りと
各部屋のご案内をさせて頂きます
こちらへどうぞ
廊下入りまして直ぐ手前から ....
今宵満月春疾風
梅には遅いが
桜にゃ早い
名乗れ
名折れの
名残雪
袖触れ合うのも多少の縁
一寸御付き合い下さいませ
もう頃合だ
耳を済ませて
きちんと嗅いで
飲み込まれない様に ....
“死にませんよ”
春の夜明け
川ぞいの土手を歩いていると
魔王と出遭いました
鼻水をずるずるとすすっています
まだ寒い中僕を待っていたようです
とりあえずティッシュを渡すと
魔王 ....
猫ですもの
貴方が好きだと言ったから
頭に飾った紅玉よ
悪役で黒幕な貴方だけれど
お金を沢山持ってる貴方だけれど
そんなもの私が望まないのを善くご存知でしょう
ただ傍に
貴方の膝 ....
長年この商売を続けていると
たまぁに
人が本になる瞬間を見るんです
ちょっと
作り話じゃありませんよ
お客さんにも覚えはあるでしょう
何もあたしの処みたいな古本屋じゃなくても良い
本 ....
【桜】
元来色の白かった私が
薄ら桃色に色づくのは
きっと貴方の仕業です
今年も
また
染まってしまいました
【金木犀】
はらはらと散らすのは
涙では無く
貴方の残 ....
お金はもちろん好きだけど
この額の小判に目がくらむような
安い奴は願い下げ
そんなものより
あたたかい
膝のぬくもりが
欲しいから
【椿】
花嫁の紅を着飾って
貴方を待っているのです
この純潔が叶わぬならば
首を落として
夢に果てましょう
【水仙】
明後日の方向を見ているのは
白いうなじを見せるため ....
雪の降った夕暮れ
すっかり冷え込んだ空気の中で
黒いコートのポケットに手を入れると
黒い皮製の手帳にいきあたりました
そう
全てはこの手帳が始まりでした
死神の僕にとっては ....
“その名前で呼ばないで下さい”
“約束ですよ”
昔の夢から目をさますと
見なれた白い天井が水晶体に写りました
ベットから見える空の色は群青色に染まっています
いつのまにか眠って
....
“眼鏡の度があってませんよ”
俺には死神のじぃちゃんがいる
母さんの名付け親だ
父さんが死んでから
母さんは死神のじぃちゃんと二人暮しを始めた
俺が面倒を見ようかとも言った ....
旅立つ前に少し気持ちの整理をしておきたくて、少し感傷的にぼやきます。
帰ってきて気持ちが落ちついたら、削除してしまうかもしれません。
永遠の迷いの痕跡をして残しておくかもしれません。わからないけど ....
“真夜中に雨が降ると良いですね”
押さえ切れない怒りの中で
死神の言葉はそれだけしか聞こえませんでした
息子が一人暮らしを始めました
あの子にも手がかからなくなって
お互いに二つ ....
“言葉にはきちんと止めを刺してあげなさい”
俺のじぃちゃんは死神だ
母さんの名付け親だから
血が繋がっているわけではないけど
昔からよく遊んでもらって今も良く遊びに行く
命がかかわる ....
“かえりみちでほたるをとってきてください”
平仮名ばかりのメールが届いたのは
電車が駅にすべりこんだ瞬間でした
アドレスは息子のものでしたが
明らかに使いなれていない平仮名と文調子 ....
“白い蛾が産まれると困るのでしばらく家を出ます”
“追伸”
“白い蛾を見ても殺してはいけませんよ”
こんな置手紙を残して
死神が家から居なくなりました
いつも一緒にいた名付け ....
“回転木馬は月夜が本番ですよ”
目の前をスキップしながら語る死神の後を
私は諦め半分で歩いていました
夏の果実は真っ赤に熟しているというのに
少し遅めのマリッジ・ブルーが私を襲っていま ....
“夜霧よ今夜も有り難う”
風呂場からのん気に聞こえてくる鼻歌を尻目に
私は部屋を出ていきました
前前から
死神の電波加減や頑固さには目を瞑って来ました
でも今回ばかりは限界です
私 ....
“朝は優しく起こしてください”
というのは
寝汚い死神のきまり文句です
名付け親の死神は寝起きが最悪です
五個の目覚ましなど死神の眠りの前では無力なので
死神を全力で蹴り起こすこ ....
“電車に乗る時は”
“なるべく人の多い車両にのりなさい”
“蒼い電車に出会ってはいけませんよ”
口うるさく喚く死神を後に
私はドアを閉めました
名付け親の死神は時々どうし ....
最初に
プラネタリウムの作り方を教えてくれたのは
祖父だった
天文学者だった祖父は
黒い画用紙と豆電球で
あっというまに
掌サイズのプラネタリウムを作った
黒い画用紙には
....
また『薬指』を拾った
今月で3本目だ
白く細い
白魚のような指に
上品なシルバーのリングが
しゃん、と通してある
今まで拾った中で
一番美しい薬指だった
いつものように
....
“夜に抱きしめられてはいけませんよ”
というのは
死神の口癖です
死神は
私の名付け親です
両親を無くした今
一緒にくらしています
命にかかわる問題以外は
かなりアバウトな ....
1 2 3 4 5
0.24sec.