その昔
プラトンは楽園を見つけた
風を捉えてざわめく木々
虹を喜ぶ満開の花
鳥や動物たちは楽園に抱かれ
幸福の果実を貪る
ただそこには、
人間はいなかった
楽園ツアーがしたいですか ....
私は魚と戦うことにした
人間が進化の完成形なのだとしたら
魚には未知なる可能性が待っている
地球の表面張力から脱出できない私と
やがて月の海に移住する魚の
放物線で交わることの無い戦い
....
弦を買いに行こう
君と私の間に張るための
君が弦をつま弾けば
メロディが私に聞こえてくる
私が弦をかき鳴らせば
和音が君に聞こえるだろう
どんなに離れていても
微かに心を震わせると
....
藍より産まれし色に
染まる深く遠い空
幻より 蜃気楼より 儚いもの
君と言葉も無く 眺めていた
砂塵に揺れる 名も知らぬ街
全ての始まりへと還るよ
君が指を向けたのは
何も無い無限の ....
私がシャッターを押さなければ
君を切り取る事はできない
だけどすぐに フレームアウト
追いきれない私は
また 君の写真を残せなかった
私が全て脱いでしまわなければ
君はシャッターを押さ ....
―夢魔―
嫌いなのは
寝苦しい熱帯夜などではなく
今 眠らなければいけないこと
そして明日 目覚めなければならないこと
自分の体温を感じながら
墜ちていく混沌と浮遊の狭間
自我さ ....
その夜 蝉が部屋に飛び込んできた
すみませんね いつもうるさくて
ジージーと耳障りな声だったが
蝉は 確かにそう言った
私は 尤もだと思いながら苦笑した
蝉はさらに言った
どうせあ ....
昔は とても不思議だった
どうして アスファルトの裂け目から
黄色いタンポポが 咲いているのだろう
綿毛は 広い大空を浮遊していたのに
どうして こんな殺伐とした場所に
わざわざ 根付い ....
眼球の裏側は
逆さの像を映している
正しい位置に修正し
脳がそれと認識する前に
見えなくても良いものたちが
自動消去されていくのを
誰も気がついていない
白黒にしか見えない犬は
だ ....
壊れた傘を 拾い集めている男がいた
破れて水が滴る傘
骨が折れてしまった傘
錆びて開かなくなった傘
雨の矢から 人を護る役割を
果たせなくなった傘は
存在価値すら もはや認めてもらえな ....
誰もいない 静かな森の中で
私は手紙を書き始めた
一行書くのに 三ヶ月ほどかかった
四行書き終えて 一年が過ぎた
足の先が 少し土に埋れていた
何とか四十行 書き上がった
木の椅子か ....
壊れたノミは 一体何本
彼の足元にうち捨てられたのだろう
その時 彼は何故
壊れたノミと共に
暗い絶壁と闘うことを
止めなかったのだろう
潰れたマメは 一体どれだけ
彼の手のひらを ....
箱の中は 暗くて狭い
何も見えず 息も出来ない
ほんの僅かの者たちが
ほんの僅かな時間
気休めに依るためだけに
私は箱の中に閉じ込められる
そうして私は
瞬きにも満たない生を
無 ....
―動物園のライオンが言った
この間 サバンナとかいう所の夢を見たんだ
ワシはここで生まれ育ったから
どんなところかは 実際知らないのだがね
それでも何だか心地好くて
高い空と草の匂いが
....
海の中空で宇宙遊泳
君の粒子(カタチ)を捜すため
やがて 化石となる僕が
永い時間(とき)を経て
幾億もの塵となり
海に溶けた君の跡に 降り注ぐだろう
その瞬間(とき)僕たちは
....
狩られたインパラは
最期に夢を見る
運命を恨むことなく
哀しみ嘆くことなく
痛みを超えた 生と死の刹那に
太古より継がれた記憶
新たな血へのプロセス
狩られる者のプライド
遺伝 ....
擬似記憶を植え付ける
あらゆるモノの攻撃から
真の記憶を保護するために
どれほど酷い尋問も
最先端のセンサーをも
擬似記憶は跳ね返し
脆弱な 剥き出しの心を護り抜く
バリアは鉄 ....
千人の戦士が
私の靴の下で戦っている
靴底と地面の隙間で
しがない主を護るために
千人の戦士が
戦い敗れ 斃れ
最後の一人までが消失した時
私の歩く道が途絶える
前に進めず ....
鞄の中に 一匹のカブトムシが蠢いていた
しかもヘラクレスだ
数日前は ぶよぶよとした白い固まりだったのに
いつのまに そんな立派な角を得たのだろう
窓から 彼を外に放した
少し黄色がかっ ....
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