蒸れ沸く都市
浸り結ぶ地下道
廃液は沸点をふりきり
南国の氷点でさしとまる
積雪の外壁は日没とともに
霙の通路を水平にのばしていく
恣意なる磁場とその伸縮の確執は ....
白煙の層が内側からゆるんでとけて 希薄な円筒をえがきだすと 円い暖簾状の幕がたれ そのむこうに藁で葺いた一軒のふるびた家屋がうつむいてかしこまっているのがみえる
まねかれるように胸元からたお ....
車窓からみえる風景を俯瞰し、埋葬の地層にもぐっていくと、忽然と体が浮遊し
天地左右をうしなった感覚に襲われ 胎児の視線で耳をすます
揺れている、天竺へむかう幾数の途が閉ざされている、それは ....
崖のしたに絶望がよこたわり
覗きみる誘惑に息を止めて一瞥をおくる
鋭い嘴が視界を横切り底無しの暗がりへまっすぐ降下する
わたしは両足を地面につっぱたまま 後ろ髪を引かれた
....
餓えに憑かれた情動が魔的な貌にとりつかれる
為すすべのない醜悪な日が何度も暮れて、緞帳はふたたびあがる
開演直前に初潮をむかえたヒロインの狼狽、途方にくれた演 ....
黒衣の修道士
修復のための祈り
遅咲きのかえり花
季節は一昼夜でめぐる
幽冥の鐘の音がしみわたる
穹立する古木は冷夜を射り
淀んだ雲間からさしこむ異和の ....
熱い河がある
古くは 岩しょうと呼ばれ
ハワイ島やアイスランド
では 血飛沫となって
存在証明する
深海の暗渠を支える
地底の 生の根源
数千年の僅 ....
肉体の故郷よ
不沈の空母と
なれ
眼を瞑ると何が見える
瞼越しにLED照明の残像が
やや遅れて
大脳葉で知覚される
残像はしばらく漂い、すぼんで消えたあとは
赤黒い闇のスクリーンに
何かを見よ ....
年月のわりには窮屈を
感じない
年月のわりにはキラキラ
耀くときもある
けれど肉質化するには
素材の硬さが邪魔をする
けして融和しない異物
死体になっ ....
はるか 暗黙の真空地帯
すべてが遠ざかりつつ
疎遠を加速化していく
浮遊する無言の恒星物質
延々と遅滞する
光の触手
超電導な絶対零度の空谷へ
倒錯した ....
味覚のない くすんだ
アッシュ トレイ
干からびた ウォッシュ
レットの細波
ひっくり返った
ドトールの裏蓋から
一本の白煙が滴り
ドラム式洗浄機の
....
雨だ
外界へのすべての通路を
遮断する 雨だ
途切れなく水が流れる音
意識の襞にべったりはりついた
彼岸を横切る河の 濁音
音だ
決して 渇きは潤わず ....
五月雨の
父亡きあとの
音を聴く
それは じき春という
ある季節の架橋
冬籠もりしていた娘が
不憫で
散歩に連れ出したときの
出来事
よちよち歩きの赤い半纏
が ふらふらふらふら
....
カリフォルニアオレンジの
レースのカーテンが開く
朝靄がかった滑走路から
無人の戦闘機が機首をあげ
オレンジに光沢した
カーテンをふりはらい
飛びたっていく
....
蒼黒い緞帳が降りた
幽かに
赤みを裾のに遺して
点滅灯を引き描きながら
輸送機らしき飛行体が
重いからだを
じわじわと傾いでいく
その向こうは
....
今夜も 眠れないらしい
羊を999匹数えたところで
口元が 音を吐き出し始めた
意味を手繰りようのない
音の連鎖に過ぎない
ときおり 息を吸う音が
人の発する声で ....
茫洋として
時間が止まると
爪をみている
視界に映る景色は
脱色して垂れ下がり
行き詰った欲望が
ただ一点を渇望しはじめる
空腹だからではない
意識の ....
頭でっかちの 平等という
民主主義
いったい この世の誰が
一人一人の直接性を踏みにじることができるというの
か?
僕たち一人一人が
読み書きができるようになってから
い ....
それは
世紀末のとある
アジアの国でのこと
とある家族が崩壊した
父であった少年は
母であった少女を
車の後部座席に横たえ
深夜の国道を走っていた
....
かつて
南ヨーロッパのとある
国の丘陵地帯に
歩く丘がいた
褐色の肌を晒し
雨期には溢れんばかりの
涙を海まで流し
風期には
丘に寄生した樹木が
....
昨日
僕は 忘れ物をした
とおもう
その忘れ物を忘れてしまった
何かを無くしたときの
この胸のしこり
何かを忘れた
と感ずる 気泡の網
「昨日のこ ....
黄金の街を走っていた
朝靄の薄い空虚を吐き出しながら
黄金のメッキに塗り潰された鳥たちが
高速回転しながら
物凄い速さで
垂直降下し
渇いた微粒状の粘膜を切り裂いている
街の ....
ワーグナーの「指環」を思いだし
朝雲に隠れかかった光の源に眼鏡を挟み込む
何万年も昔の発光躰でさえ
懐かしさを運んで届く
時間の夢
ふとしゃがみこみ
亀裂に滲みたアスファルトの鏡を ....
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