山仕舞い/山人
 
十一月一日
 悪天だったがこの日を逸すると雪が降ってしまうかもしれないと思い、向かった。冬枯れの登山口は老いた自分の終末への入り口のように静まり返っていた。
 冷たい雨が時折強く、その上風が木々を揺らしている。しかし、体は徐々に熱くなり、雨具の下は汗で飽和されている。通い詰めた登山道の其処此処の地形は手に取るようにわかってはいたが、それがいったい何の得になるのだろうと改めて感じてしまった。
 ブナの葉は、程よく緑と黄色がモザイク状に分布し、雨なのにあたりが明るくみえる。木々の紅葉は太陽の日差しの下では本質を表さない。雨だからこそ、その色合いの本質が明るく呈される。
 雨風の山頂は霧も発生し
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