The Wasteless Land./田中宏輔2
 
すみれ色の時刻。
友だちと大声でしゃべり合う学生たちや
口を開く元気もない、仕事帰りの男や女たちを乗せて
地下鉄は、ゴウゴウ、音を立てて走っている。
わたし、メフィストーフェレスは
馬の足を持ち、贋(にせ)の膨(ふく)ら脛(はぎ)をつけて歩く
つむじ曲がりの霊である。
このすみれ色の時刻。
ジムこと、ジェイムズ・ディリンガム・ヤングは、まだ
二十二歳の貧しい青年であったが、彼の住む安アパートの二階には
鏡のまえで美しい髪を梳きながら、新妻のデラが、彼の帰りを待ちわびていた。
彼の膝のうえには、宝石の縁飾りのある、べっ甲の櫛が入った小さな箱が置かれていた。
その高価なプレゼン
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