桜が散り始めた
昔、誰かがそこに植えたのだ
古びた板壁のペンキが剥げた営舎の
埃っぽい運動場の端に
左旋回だったのは
右利きだからかもしれない
春霞の海は穏やかで
座している私の ....
知らぬ間に妻が撮ってあった
私の写真が私を驚かす
知らぬ間に白髪頭の
頼りなげな初老の男が
否応なくしょぼくれた様子で
サンジェルマン大通の店のウインドウ越しに
チョコレイトやらマカロ ....
灰色の雲流れる
つむじ風にのって
花びらは舞い上がる
突然の驟雨に逃げ込んだ
小さな人々は花雲の下に
言霊は枝にとまり
とりどりの姿で色を流す
寂寥は懐かしさをまとい
風に身を ....
レールは、強い日差しに過熱している
煤けた少年が、レールの上を歩いて
線路脇には、赤いカンナが咲いている
熱いレールに耳を当てると、ことんことんと
走り去った列車の鼓動が遠ざかる
列 ....
もう峠は越えているのだよ
風は無言で運び去る
過去の方角にむかって
風にひとりごと
母の子宮で着床した時から
聞こえていたのは
私の棺に釘を打つ音
身の丈にあったやすらぎをく ....
春風に花の散るらむひさかたの ひかり幽けしゆふまぐれの月
み春日の奥山の端の海の面に 夕羽振る風や花な散らしそ
夕されば三笠の山にさす入り日 花も朱にそ染み果つるかな
きみが必要とされる理由がある
文句も言わずに黙々と働く
周りの人間にいつも親切である
トイレが詰まっても
餅で年寄りの喉が詰まっても
ささっと器用に処置してくれる
つまり
いろいろと便利 ....
苔むした三色ねじり棒が
時折脈動しながら回っている
脳天の禿げた主人は
「皮脂がいかんのですわ、皮脂が」
と、言いながら
頭髪の洗い方を指南するが
なぜ実践しなかったのだろう
と、不 ....
きみの苦しみの前に
私は立ち尽くす
すべもなく立ち尽くす
広い海原に向かって
己の卑小さを知った無力な少年
きみは微笑んで
差し出すのだ いつもと同じ
暖かい夕餉の膳
他愛 ....
きみが霜の降りた髪に
はらりと留まる薄紅の色に酔う
積もった時間は
古い層から固まりゆく
春を迎える度に
漆のように重ねてきた
嵐が吹き荒れた季節
その黒髪の一本まで
この手の ....
沈黙の扉を閉じて
飛翔を願う鳥を幽閉したまま
坂道を登ってきた
目の前の足元だけ見つめて
振り返れば
私の後ろに従うはずの
長いようで短かった上り坂は
春霧に沈んで消えていた
....
熱病のように
浮かされていた時代
走り始めた
いくつもの坂を駆け上がり
知らぬ間に撥条はへたって
ある日突然 切れた
胸を開けて取り出した撥条は
楕円形に歪んで 腐食され
真っ赤な ....
濃密な生気に溢れた暮色
童女の細い眉は西に沈んだ
夕映えの桃のその向こう
故郷は消えようとした
風は何も語ることなく
不意に吹いては運び去ろうとする
置き場所のない甘い記憶を…
それ ....
私はめったに外食をしない
何を食わされているか明瞭としないからだ
例えば椎茸は最悪である
ようやっと最近ではスーパーで見かけなくなったが
いつまでも裏のひだが真っ白けなんておかしくないはず ....
私の春は
淋しさを引きずっている
軒下に忘れられた草履は
雨に濡れたまま
旅は何を残しただろうか
心の破片を握り締めた時の
右手のひらについた傷
流れた血は土が吸った
白樺の林 ....
もも
ももももももももに恋した
私の扁桃腺はとうにない
なので病弱である
モモ
モモもモモもモモが好きだ
カタカナは不思議である
ゾウリクガメを連れてくる
私の故郷は桃の花にう ....
「牛は偉大である」 と牛が言った
「豚は偉大である」 と豚が言った
「羊は偉大である」 と羊が言った
言うのは勝手だが
それでは鶏はどうなのだ?
鶏は鳥類だから言葉を持たん
おまけに鶏 ....
私は部屋を作った
始めた頃の記憶さえ霞むほど
長い長い時間をかけて
がらんとした真っ白い部屋
いろんな場所に出かけて
美しいと思った光だけを集めたら
真夏の南中した太陽の光に似た
真 ....
穏やかな目をした医者は
「あなたの血液はどれくらいあぶくが立ちますか?」
と尋ねた
壁にアンコール・ワットの写真が飾られた診察室
この医者は修羅場をくぐってきていると直感した
肺や喉の貫 ....
ストッキングを穿いたブタが
元町通1丁目のシャネルの前で
レトロな街灯に凭れてスマホで遊んでいる
二本しかない指で器用に画面を擦る
時折落ちてくる紫色のエクステを
けだるげな雰囲気を演出しな ....
‘日本の凶悪犯の95%以上が
犯行直前の24時間以内に口にした食べ物がある’
これは統計上ほぼ真である
主婦A : そんな恐ろしい食べ物は禁止すべきでしょ。
会社員A : ほほう ....
再就職先の紹介をした知人に
立派な菓子折りをもらった
上用饅頭が詰まっているものと
内心ほくそ笑んだが
上品な包装を開けてみると
見事な上げ底であった
しかし
饅頭を取り除けた底 ....
猿山で
猿がせんずりをしている
誰に教わったのか…
死ぬまでするであろう
隣のお山では
詩人のおばさんが
七転八倒して詩をひり出している
死ぬまでするであろう
おじさんの詩人は ....
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