溝川(どぶがは)の底のヘドロから鬱勃と湧き上がるメタンガスの気泡が水面でぽっぽっと破裂する音のやうに
思念は私といふ名のヘドロから鬱勃と湧くメタンガスの気泡であって、
思念は五蘊場で幽かな音を発し ....
浜辺に足跡のみを残して
消えてしまった彼は、
多分に、月影の下
影踏みに夢中で海に呑み込まれ消えたのだらう。
彼の影は異様に蒼白く冷たく光り、
私はそれを見た途端に
それが梶井基次郎の霊と ....
陰翳

夕闇も深まる時、
森羅万象は一斉に陰翳に色めき立つ。
ざわざわとひそひそ話を始めるものたちは、
吾が存在により生じる陰翳に、
己の己に対するずれを確認しながら、
自分の居場所から ....
それは何の前触れもなくやってきた。
それは{ルビ黒子=ほくろ}と呼ぶのが相応しいのかもしれぬが、
この軀体に現はれた真っ黒な点は、その底が余りに深かったのだ。

その皮膚上に現はれた黒点は太陽 ....
布団の上にだらりと投げ出された女体を眺めるやうに
私は只管私の外部と内部の両睨みで睥睨してゐたのであるが、
もはや疲労困憊の私には鬱勃と憂愁が私の何処からか湧き出し始め、
そんな憂愁の中で私は腐 ....
神影

果たせる哉、例へば闇夜が神の影とするならば、
それは成程、∞を呑み込む様相といっていいのかもしれぬ。
何故に神に∞が纏はるのかは、人間の知が∞を前にすると、
屈服するしかなく、
そ ....
何故にそれに惹かれてしまったのか
判然としないまま、
日を追ふごとに益益惹かれるそれは、
一般に自分自身と呼ばれてゐるが、
吾にはそれは異形のものとしか思へず
それでも惹かれるのは
己の眷 ....
インコ食べ吾食する夕餉には一抹の寂しさが漂流す 水鏡に満月が宿り、
しずやかな川面を見ると
凪の時を迎へてゐるのが解る。
ぽちゃっと魚が跳ね、
尚更、静寂が心に沁み
川中に立つ柳の木は
その葉葉を落とし、
そよ風には柳の葉のない枝が
 ....
寒空に煌煌と昇り月天心 寒空の満月に心奪われ瞠目すあと何回やかやうに見るのは 最早水底にゆっくりと落ち行くやうに
断念をのみ後生大事に抱いて
おれは何もかも棄てちまったのか。
水底で死を待つのみのおれか。
それでも足掻いて水面に顔を出し息継ぎをする理由が解らぬ。
何の ....
埴谷雄高の書く韜晦で見事な文章に惑はされた若者ほど、虚体に惑はされてはならぬ。それは何故かと言ふと、虚体は埴谷雄高のでっち上げた崇高な精神の象徴に過ぎず、虚体に深遠なる意味は全くないのだ。虚体と言へば .... 存在を裏返してみると、それは口から肛門までの消化器系と言ふ外部を内包してゐる存在の有様の不思議に先づ、目が行くと思ふが、そもそも存在はその芯のところに外部が占有してゐると言ふ内外逆転したある矛盾をそも .... 春雷が轟く中で、
一際高い朽ち木に稲妻が落ちて燃え上がりし。
さうして世代は更新され行くのだらうが、
一度火の付いた朽ち木は最早炭になるまで燃え上がるなり。
雷雲が垂れ込めて一際冥い世界を
 ....
薄霧にぼんやりと月照る春の夜に、
哀しい風が吹きまする。
木木はカサカサと噎び泣き
昼間啼いてゐた鶯は
既に眠りについたのか、
沈黙したまま
風の吹き荒ぶ音ばかりがするのです。
吾が心は ....
虚空から一筋の白い糸が垂れ下がり
その糸は金色に輝けり。
虚空をよくよく見ると巨大な大日如来の顔が覗けりては
巨大な大日如来はにこりと笑ひをりて
それで吾は地獄にゐることを解するなり。
初め ....
桜の花びらがはらはらと散るやうに
今日も命尽きた人人が五万とゐる。
それは至極自然な事で、
春の、或るひは生の宴の後の寂しさは
一陣の風と共に桜の散った花びらが渦巻く底へと沈み込む。
さうし ....
時間にはとても私的だが、
{ルビ滾滾=こんこん}と湧き出るといふ心像を持ってゐる。
それはいつしかFractalと結びつき
時間はFractalの一事象といふことに固執してゐる。
古くは{ルビ ....
何十億年の星霜が経ったであらうか。
時に激変を繰り返しながらも
森羅万象は存在としてあり続け
さうして今は一見安定期にあるやうに見えるが
よくよく見ると森羅万象は皆顫動してゐる。
それはまる ....
斜めにひしゃげた窓枠に
ぶらんと垂れ下がりしガラス窓
この部屋も遂にぐるりと回転を始め、
微動だにせぬのは吾のみや
得体の知れぬ時間が到頭破綻した。
これは夢ではなく、
現実のことなのだ。 ....
花散る儚さは人を蠱惑して已まぬ。
故に桜に象徴されるやうに
その尋常ならざる散り際に
人は美を見てしまふのかもしれぬ。
私はどうも舞ひ散る桜の花びらは
血吹雪に見えてしまふのだ。
桜の樹の ....
 闇尾超の死を知ってから数週間過ぎたある日のこと、闇尾超の二歳年下の弟から私宛に数冊の大学{ルビNote=ノート}が郵便で送られてきた。その大学Noteは闇尾超が生前、某精神病院に入院中に書き綴ったも ....  晩夏の高い蒼穹の下、私はまだ、夏の暑気がたっぷりと残った陽射しを浴び、碧い碧い蒼穹を見上げる。そこには白い月がまだ昇ってゐて、白い月は晩夏の遠い地平線に鬱勃と湧き立つ入道雲を見下ろしてゐた。地は陽射 .... なんだかんだであれやこれやと思ひ悩みながらの十年以上の思索の結果、埴谷雄高の虚体では存在の尻尾すら捕まへられぬといふ結論に思ひ至った{ルビ闇尾=やみを}{ルビ超=まさる}は、それではオイラーの公式 .... Minimal musicの傑作といってもいい
エストニアの現代作曲家アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」は
多分、誰もが一度はしたことがあるだらう合はせ鏡に映る
永劫の尻尾を見るやうな蜿蜒と続く鏡 ....
積 緋露雪00(26)
タイトル カテゴリ Point 日付
思念の行方自由詩225/10/17 22:54
影光る自由詩425/9/2 21:05
陰翳自由詩225/8/6 5:50
深い陥穽に墜ちたとは自由詩225/8/3 19:36
憂愁の中で私は自由詩125/8/1 21:50
神影自由詩125/7/30 23:44
恋文のやうに自由詩124/12/22 20:24
インコ食べ吾食する夕餉には短歌024/12/17 1:44
幻夢自由詩124/12/17 1:41
寒空に俳句024/12/16 1:10
寒空の短歌024/12/16 1:08
それさへあれば自由詩024/9/9 1:18
惑はされるな、虚体に散文(批評 ...024/5/31 1:08
存在を裏返してみると自由詩124/5/21 19:44
燃える時間自由詩224/5/2 2:39
眩暈する春の夜自由詩224/4/22 5:28
虚空――(この詩は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』とは無関係です)自由詩224/4/21 2:39
桜散る中で自由詩2+24/4/18 22:24
自在なる時間自由詩124/4/16 17:11
森羅万象、顫動するも自由詩224/4/7 15:16
ガラス窓自由詩124/4/4 1:35
花散る儚さは自由詩124/4/2 4:35
『夢幻空花』 二、 闇尾超からの贈り物散文(批評 ...024/3/25 17:15
『夢幻空花』 一、 此の世界の中で散文(批評 ...024/3/18 6:53
夢幻空花 一 序散文(批評 ...0+24/3/14 3:02
鏡の中の鏡――アルヴォ・ペルトに寄せて自由詩224/2/27 4:45

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