翼を張ってゆくものよ
あたたかな地に
まひるの陽に
なびく
しなやかな草たちに
昼から夜、夜明けから夕べへと
金色の弦が鳴る
翼は 風を抱く
....
雷鳴が
手を伸ばす
息もつかせぬ濃黄色の
速く密かに追い来る
影
覆いかぶさる灰の匂いの
かすかな
水の手触りに
あなたはもう二度と
....
ごう の音に
足をすべらせた
わざと すべらせたのだ
首もとに
ゆりの匂いがする
或いはくちなしの。 口 なし 朽ち なし
....
寂 に おりとう ござんす と
ざわめく うちを
なだめ なだめし
よるの くる
とはいえ
とどまる ことしれず
きょうかいせ ....
かたむいた夕の頃
散り撒いた木犀の
からからと枯れ転ぶ花殻を集む
真白い光の軌跡が
こなれた時間を追い落とす
チェリーセージの赤い蜜 ....
人逝きて風呂場に残る水ゆるむ 石鹸ひとつ投げ入れてみる
玄関に変わらぬ夕の陽が伸びる 履かずにおいた草履の箱にも
あるじ居ぬ蛇口はぬるき水を吐く キッチンに廃棄待つ ....
高く空に刺さる 木の 黒い
黒い樹たちの隙間から
降る音 来る音
その向こうに棲む おと
冴え冴えと
地に降り積んでは
ゆる、と めぐる
発した声は
....
秋のこがねに
ざざめく山の
ざんざと落ちる
もみじ葉に
分けいりたくもないわと
言うに
うでを掴みし
指の強きに
あゆみ とふとふ
ついて ま ....
朝の くもり
4時 15 分
ほろほろ 酔ふ
鷺の 跳びをる
収束し また
拡散する
音の ひびきを
臓に 包んで
窓か ....
たとえば
おおきな海があったとしたら
底には何を置きましょう
昨日忘れた風のうた
話せなかったほんとうのこと
のみ込んだ鉛の心
たとえば
そこにゆけたとし ....
電子の気配に
目覚め
点滅する記憶を再生する
あれは 5月だったね
細く開けた小さな窓から
ふたりして夕暮れを眺めながら
またこの季節が巡ってくるといい、と
小声で話した ....
3月だったか4月だったかに死んだ親戚の家を片づけに行った。
特に付き合いのなかった人で幾度か喧嘩腰の電話を受けたぐらいしか記憶がない。そんなもので片付けは事務的に淡々と進む。所帯道具一式、服、 ....
東京より来たる夫のたこ焼きを返す手つきもあざやかになり
年少の子の足下に犬伏せる晩飯時の特等席なり
形だけの詫びにと届くふた箱のいちごが黒くなってく野菜庫
さっき ....
手を結び子どもの顔して軽々と瓦礫の丘を越えるものらよ
君が見るわすれな草のみずいろが欠けたる空の隙間を埋める
散りさくらアスファルトの上なお走り側溝に飛び込みようよう息絶う
....
君と手をつないで見てる赤い空 春の毒皿どこまで喰らおか
満ちてゆく月を恨みつその日まで素知らぬふりで花摘む逢瀬
かの人を心で百度斬ったとて力なき手は髪を梳くだけ
つい ....
それは薔薇の花
かもしれない
鼻孔の記憶を痛いほど締めあげながら
目の奥に唐草を描く
たゆたう紫は
いくらもいくらもはいってきて
それは空白のノート
なのかもしれない
サフランの香 ....
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