東京には月がない
智恵子じゃないが
東京に見上げる空はひとつもない
鈍くにじんだ星々は
目も当てられず
人恋う想いも消え失せる
こんな迷いの空の下
誰を想えば
報われる ....
取り込まれなかった洗濯物 母はどこかへ去りぬあのサンダルで
訪ねるは別れし母の助手席で行方知れずのしりとりの先
残された下着の匂い もう母は赤子抱えぬ立派な女
美しき朝は私を切り取って 人影落とす一人のベッド
殺人をできるくらいに好きな人がいてすべての人が愛しい
雨は止み立ち直れよといわれても 涙ただれてまだ恋焦がる
朝の頭痛知っていながら ....
毒林檎 食んで死にたい 口付けで君が生かしてくれるというなら
十六を告げる鐘の音 くれるなら糸紡ぎ針と深い眠りを
美しい声もたゆたう髪も捨て 死ぬまで叫ぶ王子への恋
「寂しさ」の四文字に住む気まぐれな魔物に理性食われぬように
青色の電車に乗るか乗るまいか 別れをかけるブービートラップ
じんわりとしめる手のひら握るのは君じゃなくって自分の指先
春なんて要らぬと言われ白梅は ごめんごめんと俯いている
抱き合った十分に降る春雨は思い出に似てぬるくやさしい
言葉などなくて伝わる僕たちはいつものように別れる別れ
軋むほど力をこ ....
もう最後のほうは
泣かさないようにって
それだけを思って抱いていた
もう始まりの
熱も衝動もないまま
とても静かに
君を抱いた。
暗い空が
黒い海に埋もれてゆく
私は
一人砂浜で
掴んだ砂を握りつぶす
隙間のない
二つに
嫉妬して
世界を破りたいの
どうか今すぐ
闇の深く深くへ
より恐ろしい魔物を求めて
....
あとちょっとだけ好きでいる さよならを上手にいえたご褒美として
頭にも手にも胸にも眠りにも 君がまわって中毒症状
かじかんで走り出せない こんな日に限って君の声が聞きたい
毒りんご食んで死にたい 口付けで君が生かしてくれるというなら
酸素など ....
したり顔その方がいい不倫なら
移り紅どうどうとすりゃ良い余興
指輪する男に惚れる症候群
爪立てぬ癖持つ女に要注意
香水をつけぬ女に策士有り
倫ならぬ恋はどちらか合い知れず
星々は願いの重さ堪え切れず 儚く散るよ宇宙の果てに
瞬きは啄ばむような口付けを溢しているから口付けをしよう
夜の空寒さが増せば増すほどに輝いている誰かの涙
此の儘 貴方と
二人 狂いもなく
想ったが最期
神の狙い撃ち
千切れる指先
抜けてゆく髪
強く抱き合えば
引き裂かれる反動で
蜘蛛の巣のよう
捕らえられたら逃げら ....
無いものをねだる小さな子のように 母は泣きたり飯冷めぬ間に
玄関の灯り帰らぬ人のため灯し続ける湿る手の母
手が二つ入る背広のポケットに 父は誰をや隠したりけん
夜泣きする猫抱き上げて窮屈に 慰められず謝罪する父
台所一人立ちたる母 一人湯飲みの口を無心で洗う
身体を切って
心臓を取り出して
どうか
その胸で温めてほしい
それ以外
この寂しさは
埋まらないような気がして。
別れのときは、
必ず雑踏の中で
あなたの声が
通るような道じゃ
さっき振った雨の雫に
電線が輝いて
空気は澄んで
美しさに
切なくて死んでしまいそう
別れのときは、
必ず雑踏の ....
汚いものを拭い去る、
白雪姫のキスのように。
感覚さへも失って、
あらゆる針が意味無く回る。
赤だけ残して、辺りはモノクロ。
風も無いから、雲も止まった。
指に絡まる熱情が、
....
ぬるい水につかって、夕方の匂い。
もう、あがりたいのに、
冷たくなりそうで、まだあがれない。
ふやけて、
子どもに戻っていく。
ふやけ終わって、
もう変わらない体にあまえて、
まだ、 ....
愛しい人よ 泣かずにおくれ
悲しみはいつも 僕の知らないところで
愛しい人よ 笑わずにおくれ
眉寄せ顔 隠したくなる
一瞬の話
痛みも
泣きじゃくった幼い頃
アスファルトが家まで ....
唇が嘘をもらして震えたり 夏の終わりの蝉のようかな
強まりて心を荒らす雨音に 彼(あ)の横顔が身に降頻る
萩揺らす女(人)の鈴鳴る声を聞き 見失いたりひかれる君を
リビドーをひらく夜の帳が下りる
渇くからだが水を欲しがって熱を感じるの
つかんだ手はもうあたしのもの
二度と離さないこのままくれて
水も甘い果実も飲み干してあげるわ
独り寝れば枕が濡れる ....
着慣したる父の背広ひろげれば 知らぬ匂いの蝶が湧きたり
目を閉じて、願っていた。
月が近すぎて悲しい夜。
さよならのキスは、少し冷たかった。
茨の中で愛した人を、
逃がしてしまった、悲しい夜。
ちがう。
血を出しながら、
茨の ....
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