雨の街は花園
ダリア・ヒマワリ・バラ
小菊・紫陽花・朝顔
花たちは楽器でもある
雨の細い指がそれを{ルビ弾=はじ}くと
少女のペチコートのように重なり合う
波 波 波 波
哀しいことでもあるのか
手に取って口付けると
涙の味がする
緑水を切子グラスになみなみと
桜はうつむき加減で
枕元に白蛇の足音
額にかかるささやき声
こくりと絞められる狂夜
一人で切りそろえた髪
一心不乱で吹かれる
進路変更の予定はないが
少女が春風のように通り過ぎると
かたい後姿がかしぐ
一枚の薄紙に綴られた想い
恋はま白き薔薇
咲き始めが一番良い香り
朝日に一瞥されると
小さな蝶になって飛び立っていった
たわわに実った果樹のような女
葡萄色の唇から溢れ出る
神への賛美
芳醇なものがグラス一杯に注がれ
陽に照らされた観衆がそれらを飲み干す
薔薇の絡まる門は乱暴に開けられ
木々は悩ましく髪をなびかせる
干したままにしてあった小さなハンカチ
若鳥は驚きによって飛び立ち
二度と戻っては来ない
空中に遊ぶ
赤 黄 緑 青
投げられていそいそと飛んだのに
誰の手も触れず畳の上に落ちた
あんなに軽いのに
刻むたびに届けられる
琥珀色の手紙
大理石の文字盤に蔦の模様
年老いた配達人の腰は曲がっている(鳥に似ている)
かの人の面影を受け取る
暗い森の奥深く
僕らは咲きほこる冷たい水を飲んだ
誓いの口づけを交わさずとも
木苺が赤い宝石のように実る秘密の場所へ
お互いをさらっていくことは
少女の小さな口がそれを求めると
恥ずかしげもなく身を開いた
それは若草を容赦なく踏むような音だ
それは若者の肩のような噛み応えだ
林檎には別の名を与えた方が良い
カタカナの色名
太陽は波に抱かれた宝石を研磨する
ほてった鱗は月光で冷ます
満月の夜には
珊瑚の産卵が始まる
蜘蛛の編んだ細い網に雫
ひとつひとつに虹がかかり
その上を二人連れ立っていく
時には酔った蝶と芳しい花
時には奏でる風と歌う鳥
八月ま近い青空の下
日に焼けた頬をつついただけで
オレンジ-ドレスの娘は笑う
太陽がお前の乳母だったのはもちろん
月は忠実な騎士のように守っただろう
すべすべしたビロードの服
きんぽうげは穏やかな黄金の波のよう
美味そうな花粉をぶら下げてお帰り
よく唸る翅は迷わないため
眠る赤ん坊の邪魔をしてはいけない
細い銀の糸で田園は縫われた
少女は短い休み時間に少しだけ眠る
雷鳴が布をいっそう白くし
指貫きを嵌めたままの指が
ぴくりと動く
幻覚者の夜からお前は生まれる
お前の肌は月のように青白い
痛みは甘美な酒などではないが
深く背中に差し込まなければならない
その鋼の翼を
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