....
君が勢いよくカーテンをあけるから
まさに零れ出ようとしていた光が
勢いよくぼくを包み込む
その白い肌は朝に満たされて
なんて君を美しくさせるんだ
たった今ぼくのなかも
朝が通り抜けて行った ....
水暗きなかに閃光突き刺さるまじわる場所は色彩なき場所
青春の色彩すでに忘れたり鳥飛び立てる後の静けさ
掌にあまる白桃まだ知らぬ空の色彩抱きて帰らむ
君が運んできた卵料理を食べながら
僕のそばに腰かけた君の瞳に見入る
夜の闇に車の音が消えてゆくなかで
なぜだか君の表情が変わっていくのがわかった
僕が卵料理をナイフで切り開いてゆくように
君 ....
風吹きて傾きやすき天の川おをむけのわれに星降り注ぎ
初夏の森蝶に誘われ入りにけり敵の数だけ花持ち帰る
夏葱や魔法使へた少年期
麦藁帽誰かの思い出波に消ゆ
夏草や旅の鞄に陽が落つる
夜霧のなかのバイオリン弾きの
奏でる音はどこかもの悲しい
それは夜霧がそうさせるのか
それともバイオリン弾きが
そのように弾いているのか
グレタ・ガルボは
実はフランス政府の
女スパ ....
夕陽の堕つる彼方に昨日問ふわれと埃かぶりし母のオルガン
澄み渡る空に浮かびし虹を見る子らの顔には虹の跡なし
われ乗せて北へ走らむ夜汽車にて車窓に顔つけ頬を冷さむ
蟻地獄柱時計の午後三時
ブルースと夜霧のためのバーがある
黒百合や母のピアノの埃拭き
車窓がくもって何者かが問いかける
移民の悲しみ似た淡くはかないものだ
いくつかの希望を抱いて死んでいった
若者の中の一つの宇宙だ
車窓がくもって見えていたものが歪む
ひときれのパンに空い ....
蟻群れてダリの世界を解体す
キリコの街に少女失踪月見草
マグリットの青空の下に暗き闇
丘の上で一匹の
蝶を追いかけていたら
普段はだれも寄りつかぬ
樹海の入口に立っていました
樹海の奥から声がして
その声に誘われるように
ついていくと
大きな沼が目のまえに拡がりました
....
夏蝶が越ゆる沼にて逢ふものなし意思なきわれの明日浮かぶのみ
青胡桃にぎって家に帰る道街灯の影を父と信じて
夏空の鎮魂終わらず煙草火を擦り消し煙空に広がる
旅人に墓がなければ花ユッカ
向日葵に夕焼け沈んでハレルヤ
ナイターの灯り盗みて後火とす
「コーヒーでよかったんだよな」
「あぁ、ありがとう」
「・・・おわかれだ」
「えっ!どうしたんだ。いきなり」
「遠くで星が呼んでいる」
「どうしたんだ?」
「遠くで星が呼んでいるんだ。僕は ....
バケツを持って浜辺に向かい
バケツでそっと盗み出す
目の前に広がる海を
バケツでそっと盗み出す
頭上に浮かんだ夕焼けも
バケツでそっと盗み出す
帰り道の一面の青麦も
バケツでそっと盗み出 ....
夕焼けの沈む地平の彼方に
メロディと君は消えていった
僕が煙草の火を消せば
目の前に枯野が拡がる
君にも見せてあげたかった
メロディと君は
やがて海の見える丘に
小さな家をたてて住むだろ ....
小市民の怒りは高層ビルのうえ浮かびて月は夜を満たさむ
聖燭をみがき輝かしたる夜工人ヨセフを愛してやまず
カモメ飛び立てるを遠くながめをり意思なき男は飛べないカモメ
研ぎ澄まされたナイフで空を
切り裂いた太陽は
六十億もの穴の空いた
大地にやがて沈んでゆく
プラタナスの葉に覆い被さるように
牧羊神の与えた息吹が
薄いガーゼとなって絡まる
初夏の森を中 ....
北へ行く電車の音を聴きしよる瞼の奥に郷里はありて
五月空美貌眩しく輝きて刃のごとくにわれをつきさす
夜風吹き揺るる蠅取紙の蠅われの孤独は夜に膨らむ
小雀を埋めてスコップ温まれり
陽炎に十八歳の逃避行
電車過ぎ青田の中に風ぬける
病院の最上階の病室の
眠れぬ夜に少年は
夢で作った絵具で
誰も知らない絵を描く
空は大きなキャンバスだ
ひとりでさびしい少年は
空にたくさんの友達を描きました
父親を知らない少年は
....
夏蝶が荒野をぬけて来し時に大地の眼はするどく開く
青年はミケランジェロに惹かれやすく告げし身深く一羽の鷹に
夏の夜に堕天使つひに優れたり星月夜すぐわれに近づき
メーデー歌泥つく靴で地をならし
いもうとの髪梳く夜や沈丁花
手の平に青空統べて修司の忌
開け放たれた窓から
夜風がカーテンを揺らし
月の光がこぼれだす
少女の眠れぬ夜はするどく
闇の中へと切りこんでいく
少女がひとさし指で
空をなぞるように
星の数をかぞえている
....
青空にわれをおさめし帽子舞ふ故郷はいつもわれを拒まづ
街灯に蛾はなに求め集まれり夢なき高校生の分身
マッチの火点けて拡がる夕暮れに未来に逆らひ運河薔薇色
教会の鐘を逆さに春の闇
わが死後は一匹の蠅のみ知るものを
澄む空とわが髪からむ青嵐
身体をふいにすりぬける
風にそっと教えてもらった
この世界は未完成なんだって
そういえば海の色は
まいにち
まいにち
違う色
水たまりにうつっている
ぼくの顔は
ただただ遠くを
....
霧の村に石を投げれば切り開く明日の地平は放浪型に
五月空どこ見渡せどあを続き少年雲を翼にかえる
シーザーを刺して終わらむ野外劇星は夜空にあふれて消ゆる
蠅は手を擦り教師は三枚目
父母を疑ふほどの朧かな
雛菊や写真の父はいまも若し
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