月光が街を包み込む夜に
猫は二足歩行で立ち上がり
夜露を手鏡にして
枯葉のコートをまといつつ
雲をカーテンとしながら
おめかしをする
月光が街を包み込む夜に
雀は口笛高くならしつつ
....
去りがたき旧家にひそむ精霊も君もわが青春の影とす
穂草は種を密かに飛ばすイエスよりマリア若きをその罰として
満天の星は人の不幸ならむと決めつけ孤児はおのれなぐさむ
翼の先はすぐに郷里や夕燕
飛ばんとし両手拡げり種案山子
母の老いあざむき香水闇にひかり
巴里の色を僕はしらない
おばあちゃんは
それは淡い青い色だと言った
夜が乾いていく
するとセーヌ川がたちまち
空に吸いこまれていくのだそうだ
巴里の音を僕はしらない
おばあちゃんは
....
世界の果て求め太平洋に出づ勝ちても悲しき少年の日は
鰯雲旧家の歴史も浅かりき表札静かに滅びを急ぎ
疑いなき眼によりおこなう間引き故両手の罪は水で流れむ
春の蚊におのれかさねて詩人の詩
沈丁花抱けるだけ抱き母貧し
訛りなつかし語り返さん葱坊主
夜風が強くて
ガラス戸が揺れる
冬の断末魔のように
ガラス戸が揺れる
蠅が一匹手を擦り
未来の行方を見つめてる
ビー玉が溢れんばかりの
夜の底
何も語らぬ
夜の底
カラスた ....
青年は蛮声あげる暗黙の絵画のような空にむかって
麦垂れるわが過ちを焦点にあたたかき闇充満してゆく
失うものなければ雲の峰仰ぎ草笛吹きつつ孤独を癒やす
草若葉母の罪つぐなふべきに
青年は明日にこがれて桃の花
芹の水嘘を真にしてうつる
午後のゆるやかな
時間の流れる公園で
片隅のベンチにもたれつつ
ふと洩らしたため息が
小さな小さな船になり
砂場を蒼い海として
航海に出る
僕の小さな小さな船は
とても壊れやすくで ....
わが春の分身とよびたき青き種子大地の暗み信じて沈む
いちめんの麦の青みのなかにいて思ひつげよとわが背押す風
上空の子燕のみが新しく街にはびこる意思なき者は
種を蒔く思想なき者蔑視つつ
復活祭たばねし少女の髪揺るる
春の雨車窓の少年頬冷やす
雨の日に
美術館の裸婦像は
艶やかに
やがて本当の姿を見せるだろう
ぼくも同じだ
ぼくの想いは風に乗り
雲と流れて地球儀の裏側の
ひとつの地平となるだろう
暖められた卵のように
....
電車過ぎやがて月食はじまりぬ夜風静かにうぶ毛を揺らす
噴水も止まり後には静寂と夢なきわれの影はゆらめく
他郷での海岸にでて小鳥らにここも故郷と言ひてはばかる
ペダル踏む春野に轍を刻みこみ
青麦に大人になりたく包まるる
すれ違うモノみな思い出桜餅
少年は手にもっている一つの林檎を空に向かって投げる
するとそれは翼を拡げる鳥になった
少年は青い空が好きだった
空の中は永遠に汚れぬ世界であると信じていた
少年はどこまでも途切れぬ煙突 ....
鏡台を売るとき若き母うつり秋風にわが身を虐げる
怒りなる林檎投げつけ少年はジャーナリズムの正義疑ふ
叔父いつも偽善者ならむと決めつけて蒲公英踏みつけ青空仰ぐ
わが物とすべき湯船に春の月
煙突の煙途切れぬ啄木忌
葱坊主父問ふてみて家暮らし
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