脳梗塞で麻痺をした身体を起して
杖をしっかりと握りつつ
弱った足腰で孫を出迎える父。
「よしくん。よしくん。」と急ぎ足になれば
転んで怪我をしないように。と
周りの皆が心配をする。
....
些細な会話に植えられた
人を伸ばして育ててゆく一粒の種。
分け与えた優しさは感謝のこころとなって
何処かで必ず
大きくて明るい灯火となる。
父の遺影を眺めては
にっこりと笑う甥っ子。
あー・うー・とようやく声に出した喃語で
懸命に話しかけてくる。
死ぬことを自覚した少し前
最後に植えたくちなしの木は
一階の軒先よりも高くな ....
元気よく動き出す孫の手足を眺める
父の眼差し。
鼻とほっぺたにちょこっと触れて
「ママにそっくりだ。」と
口元を緩ませる。
喃語できゃっ・きゃっ・と話をされて
機嫌よく頭を撫でなが ....
「おはよう。」の声に反応をして
力いっぱいに両腕を動かす
生後二カ月目の甥っ子。
小さな身体をそっと抱き上げて
ミルクを飲ませる妹の横顔は
また一つ新たな変化を見せている。
よちよ ....
追視を始めるくりくりとした大きな瞳は
一点を眺めたまま離さない。
目じりと頬に皺を寄せて
くしゃりと笑った父の顔を。
丸くて小さな手は
元気よく動いて何かを掴もうとしている。
頭をなで ....
真夜中の古巣に向かい歩いている。
ここは慰めの場所
心を元気にする止まり木だ。
移り行く場所を眺めても
寂しくは無い。
懐かしく遠い日々の出来事を支えに
今日もまた背筋を伸ばす ....
父の魂は
今に置かれた座椅子の上で
孫が遊びに来るのを待っている。
ぷにっ。ぷにっ。と
柔らかいほっぺたの感触と
宙を見つめる大きな瞳を思い浮かべつつ
かわいい孫を
自分の手で抱き上 ....
甥っ子の手を握る時
妹が生まれた日の事と
父の手を思い出す。
私をずっと守り続けてくれた
大きくてごつごつとした手を。
小さな手を眺めつつ
すーっ。すーっ。と
寝息を立てる口元に ....
「私は洋食が好きなの。」と言って
いつもミラノ風ドリアを頼む90歳の祖母
性格もシビアだが
財布の中身に関してはことさらにシビア。
死にかけた親父にミラノ風ドリアを食わせると
やり残した ....
-おかえりなさい。-
御馳走を囲んだ部屋に父がいる。
右手で柱を掴み玄関先で手を振る父がいる。
骨という抜け殻になった父が腕の中にいる。
「おいしいね。」と言って食べていた金平糖が
袋を開け ....
退院直後父は湯呑を差し出して
「あと少しだけ、水が飲みたい。」と
看護師の母と妹に言った。
手の震えを抑えつつ
湯呑を落とさぬよう
中々力の入らない両手に
ありったけの力を込めて。
....
思い出すのはうれしかった出来事ばかり。
九九を全部言えることが出来てほめられた日
すき焼きを食べて「おいしいね。」と笑いあった寒い日
試験に合格をして「おめでとう。」と言われた日
初めての ....
父はもうすぐ骨となって帰ってくるから
固く冷たい手を最後の別れが来る時まで
しっかりと握り続けていよう。
ぐずる甥っ子を抱き上げ
父はいつでも背中をさすりつつ
時折歌を口ずさみ
廊下や座敷を行ったり来たりと
泣き止み
眠りにつくまであやし続ける。
母となった娘が生まれたばかりのころ
ぐず ....
妹が甥っ子をあやすとき
そこには亡き父がいて
二人の顔を眺めては
歌って声をかけつつも
小さな頭をなでながら
いつでも笑って
あやしている。
冷たくなった父の手の上に
菊の花をそっとのせて
石で棺に釘を打ち付けた
冬の昼下がり。
微かに差した日差しの中で
手を振る父の姿が見えた。
それは
我が子を育む願いのように
手 ....
父の流した涙は
家族への愛情と感謝の心。
母の手をぎゅうっっと握りしめ
深く大きく呼吸をして
最後は静かに
こと切れた。
戦争末期
遠い南方の密林で銃弾を浴び
そのまま朽ちて骨を晒続けている私の伯父。
行きたくなくても
行かねばならなかった
国からの命令。
(国家はいつも、民衆を置き去りにする。) ....
実家の仏間では
北の方角に手を伸ばし
いつでも笑い出す
生まれて間もない甥っ子。
姿かたちは見えなくとも
かわいい孫に会いたくて
ふらりと帰ってくる父が
楽しいひとときを過ごしている ....
父にあやされて
ようやく眠る小さな小さな甥っ子。
ぽん・ぽん・と背中に優しく触れて
胸にかかる寝息を浴びながら
空を見上げて呟いた。
「ぼくはもう、何もいりません。」
遠い昔
....
初孫の頬に触れる父の大きな手
きゃっきゃっと笑う声を聞けば
今度はそっと頭を撫でる。
母となった娘の腕の中
ぱたっ・ぱた・ぱた・と動く
ちいさな手足を眺めれば
目尻もだらしない程垂れ下 ....
父の夢を見た。
背広を着た元気な頃の姿を。
頭を撫でられて
何か言いたげに口元が動いても
声を聴くことは叶わない。
目覚めたら
今日は私の誕生日であることに
気が付いた。
日々 ....
妹がママになると判った日
母の手を取る彼女の傍らでは
今は亡き父が佇んでいた。
孫の誕生を共に喜び
元気で丈夫な子供に育つよう
そっと見守り続けているかのように。
私はほんの一瞬
....
箸で摘まんだ骨の欠片。
これは
私の頭を撫でた父の手。
たった今
父は抜け殻となって帰ってきた。
広い部屋に佇む母と娘たち。
炎の熱だけが
冷え切った両手を撫でまわす。
「形が ....
夢を見るのは
好きな人がそこにいるから。
忙しい日々の中で
見続けた姿を追いかければ
負けまい。と思う気持ちが芽生えた。
(ココニ帰リタイ。)
確かに残る私の居た形跡。
文字を辿 ....
何処までも続く無色透明の青
ぽつぽつと現れた雲の鱗片が
家族の元へと帰る父の骨の様だ。
炎の熱を帯びた銀の台を眺めたら
思わず声をかけていた。
「お父ちゃんお帰り。熱かったねぇ。 ....
父のお骨を眺めたら
諦める。という気持ちが
蘇ったらしい。
重たい陶器の蓋を閉めて
位牌と遺影を並べたら
合わせた手と手の隙間に
小さな水たまりができた。
木箱に入り
白い布に包まれた父の骨壺を抱きしめてみる。
次々と浮かぶ
共に過ごした楽しくも懐かしい日々。
一緒に眺めた江の島の海と
鼻先をくすぐる潮風の匂い。
真っ暗な部屋の中に
....
49日の晩
家のあちらこちらで
父の気配がする。
(ぎしっ・・・・。ぎしっ・・・・。)と
鳴り響く階段と
広い縁側。
家中の壁を撫でまわし
目を細めながら歩き回る姿が
脳裏に浮 ....
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