桜の季節
舞い踊る花びらの中で
遺影の父が笑っている。

暖かな風が吹いて頭上を見上げれば
並んで浮かぶ雲が二つ。
その姿は
海原をゆくイルカの親子にも似ていた。

八ヶ岳の裾野に抱 ....
制作進行は死なない。
制作進行は死なない。

徹夜明け
仮眠を取る前に先輩が一言。
「素材の上がりが出ないなら、家まで行って
呼び鈴を鳴らしても良いから。」

制作進行は死なない。
 ....
「会いたい・会いたい。」と
願い続けていたら
神様の元に声が届いたらしい。

やっと見つけた笑顔を眺めたら
視界も霞んで
動く事が出来なくなった。
今年も咲いた
家の裏にある公園の桜。

去年と違うのは
手の中で微笑む父の遺影。

ぶわっと強く吹いた風に
花びらが舞い踊れば
「綺麗な景色だ。」と
喜んでいるかのようだ。
白いゆりの花を飾った夜
父の遺影は
より優しく穏やかに見えた。

「きれいな花だ。」と
喜んでいるように
私の心が感じ取ったのでしょう。

台座に置いた骨壷の箱が
明かりを消したはず ....
父がいなくなり
4回目の朝が来た。

冷たい空気の中
花瓶に活けたばかりの花に水滴が見え始めれば
荒れた手の甲の傷が
ほんの少しだけ痛くなった。

暖かな部屋に行こうとしても
目を閉 ....
腕と2本の針をつなぐチューブが
窓から見えるスカイツリーよりも長く伸びているようで
今朝飲んだ1錠の薬が
子供だましのおもちゃに見えたんです。

他の人よりも若く亡くなった父も祖父も
酒を ....
紙の上を動き回る鉛筆が面白くて
描いた絵が動いたら面白いのに。と
いつしか思うようになった。

クレヨンと鉛筆を握り続けた幼い手と
走り続けた先で見えたもの。

ここにいる証を残せるよう ....
取れたてのトマトを氷水で洗い
大きな口でかぶりつく。

暑くなり始めた水場の前で麦わら帽子を被り
冷たい水で顔と手を洗う父と私は
虫や暑さと格闘しつつ
畑仕事に精を出す。

太いきゅう ....
昨日届いた今年の新米。
白く輝く米粒が
すくい上げた両手から零れ落ちる。

その日の晩
一粒も残さないで食べなさい。と
母はしゃもじを握って何べんも言った。

白い湯気を顔中に浴びて
 ....
(トン・トン・トン。)
軽快なリズムで動く父の包丁さばき。
収穫したばかりの夏野菜の中からナスが二つ
銀色のボールからこぼれ落ちている。

オニヤンマが一匹部屋の中に迷い込み
茶碗を並べた ....
小さな足音が一つ
駅の階段を降りて来る。

24.5度の空の下
大きな麦わら帽子を被る小さな身体は
今着たばかりの電車の中へ消えていった。

次の瞬間
麦わら帽子と入れ違いに
ホーム ....
君の声が
何処からか聞こえるのだろう。

人が集まりだしたライブハウス
談笑を楽しむ人々の中から
あたりを見渡して
花々を渡り歩く蝶のように
休む間もなく飛び回る。

開演5分前
 ....
ここに来れば対峙をしているようで
いつも以上に背が伸びた。

ひときわ目立つ大きな墓石
古びた見た目に見劣りしない文字が刻まれている。

元師陸軍大将の墓

駒ケ岳を見下ろす丘の上
 ....
渇いた田んぼに流れる鉄砲水
今年の田植えが始まって
いくつもの麦わら帽子があちらこちらに見えてくる。

田んぼの脇の水路で汚れた手足を洗うと
流れてくる水が冷たくて気持ちが良い。
少し高く ....
暖かな湯気が立ち上る南瓜と小豆の煮付け。
薄く切った胡瓜の上に鰹節をのせたら
慣れた手つきで父がぽん酢をかける。

こんなものしか出せなくてごめんね。と
母はみそ汁をよそい
今焼けたばかり ....
古い写真のおじさんは
口をへの字に曲げて
堂々と背筋を伸ばす。

綺麗に整えた軍服の襟元は
これから死に行く運命でさえも
「私の誇りだ。」と
言っているかのようだ。

行ってらっしゃ ....
田舎町の空を明るく灯す
年に一度の花火大会。

いつもは走り回る校庭に
ビニールシートを広げて
父が買ってきた焼きそばとタコ焼きを食べながら
南の空を見上げる。

ドーン、と響く地鳴り ....
言いたいことも言えぬまま
蓋を閉じた父の棺。

最後に触れた手に一輪の花を握らせて
また会いましょうね。と
母は呼びかけた。

悲しみの中
いつもと変わらぬリズムで時刻を告げる
柱時 ....
掃除をしたはずの離れは
埃臭くて何処と無く汚い。

段ボール箱を破いて
いくつかのゴミ袋に詰め込んでは見てみたが
こまめに捨てなさい。と呆れる
父のお叱りが聞こえた気がして
久しぶりに開 ....
靴を鳴らして歩く田んぼの畦道
やんちゃに暴れる子犬のリードを父が必死に手繰り寄せる
寒さに負けまいと白い息を吐いて私は走り出す
気づくと遥か後ろで手を振る父が私を呼んでいた。

遠くに見える ....
捨てしまったはずの着せ替え人形。
何故だか会いたくなって
押入れと物置の中を探し回る。

埃まみれの一斗缶
蓋を開けてみれば
無くした筈の人形の靴
綺麗なままのワイングラスの横に
ちょ ....
父と食べた大トロの刺身が
真夏のトマトよりも美味かった。

春先の清水港
少し冷たい潮風が
ドライブ休憩中の身体を包んで心地よい。
初めて見る厚く切り分けた大トロの刺身は
一口二口と切り ....
高田馬場駅から徒歩10分
父の居たオフィスは今でもそこにある。
建物を眺めて
私は買ったばかりの眼鏡を太陽にかざす。
二つのレンズは太陽の光りをいっぱい集めて
私の全身に降り注いだ。

 ....
娘に触れられて
少しだけ水に戻る手の甲の霜。
寒い部屋の中では一瞬で元に戻り
組まれた父の手を冷たくした。

父はもう人では無い。
今朝水揚げされた魚河岸の魚のように
足を縛られ逆さづり ....
思い出したくない。と
思考を捨てた。
声が思い出せない・良い出来事が思い出せない
いなくなったことが悲しいから
思い出すことを辞めたい。と
最初から居ないと思い込むようになった。

「お ....
雨の降る朝
赤い長靴をそろえた玄関に
少し履き潰した黒い革靴。

傘の手入れをする父は今から一人
単身赴任先の東京へと向かう。

靴を履き襟を正す
背広姿の父の横には
母の握ったおに ....
父の手の中に
半分に割った焼きたてのさつまいも。

口に入れて噛み砕けば
優しい甘みが空腹のお腹と
迷子で泣きつかれた心を
しっかりと抱きしめる。

ほくほくのさつまいもは
口の中で ....
迎えに来た父の手を引いて
私は休日のショッピングモールへと直行する。

グーッと鳴る空腹のお腹
小さな手は大きな手を離さない。
はぐれてしまうのが怖かったせいなのか
私は父の手をぎゅーっ。 ....
褒められた事が今になって
子供の頃に描いた似顔絵から出てくる。

不恰好に歪んだ眼鏡と
右と左で大きさが違う目。

一生懸命かきました。
と6月18日・お父さんありがとう。
の横に書か ....
梓ゆい(404)
タイトル カテゴリ Point 日付
春の日差し。自由詩318/10/25 21:49
制作進行行進曲PART2自由詩2*18/5/9 12:09
想いが届いた日自由詩118/5/8 0:32
回想自由詩2*18/4/5 3:10
おもかげ自由詩318/2/17 19:22
微かな祈り。自由詩318/2/2 3:21
病と向き合った日自由詩017/11/27 21:50
夢のあと自由詩217/10/19 1:56
きれいなもの自由詩317/8/1 15:08
白いご飯自由詩317/8/1 2:13
通り雨自由詩117/7/31 22:49
夏空の景色自由詩317/6/24 4:00
ひらり・ふわ・ふわ自由詩217/6/23 8:55
見えなくなったもの自由詩317/6/8 9:29
水辺のまぼろし自由詩217/6/8 9:16
ただいま自由詩417/6/8 8:54
そこにある日常自由詩217/6/7 5:54
花火大会の夜に自由詩017/3/17 8:14
暖かな食事自由詩417/3/17 7:59
お片付け自由詩217/3/17 7:39
初めての影送り自由詩317/3/6 1:47
後を追う自由詩117/3/6 1:30
うまかもん自由詩017/3/6 0:48
生きた証自由詩117/3/4 22:54
寒い部屋自由詩017/3/4 3:27
寒いときには冷たい手を思い出す自由詩017/3/4 3:11
朝の情景自由詩117/3/3 21:44
迷子の後で自由詩217/2/24 5:53
休日のお出かけ自由詩117/2/24 5:05
クレヨンの記憶自由詩317/2/21 20:11

Home 戻る 最新へ 次へ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 
0.39sec.