今夜は月を後ろに
歩こうと思う
白い月明かりに
冷たい手の平をかざすと
浮きでた手首の骨と
静脈がよく透けて見える
街灯も無く
家の明かりも無く
駅の照明も消え果てた夜
....
わだつみの海に去りにし人々よ生まれ変われよ花ふる里に
沈黙で迎える我に君もまた沈黙で返す風の音揺れる
夕暮れが窓から見える通学電車同じガラスに君の横顔
友もなき日常つづるケータイに親指で打つ三十一文字
窓越しに葉の色変わるつぎつぎと巡る季節の今日という色
手をひろげ腕を伸ばせば指先に小さな葉っぱ吾は木になりたい
千代紙の ....
一本の線をひいては
また消して
ひとつの点を描いては
また塗りつぶし
汚れたページの
白を
じっと見つめる
ため息
柔らかな赤いチューリップを花束に君を訪ねる昼下がりかな
ねずみ色の雲の薄墨に染められて山桜ひとり風に揺れている
木蓮の茶色く染まった花散れど今日はほのかにみどり葉見える
バースデーロウソクもなくケーキもなくひとり朝食に味噌汁すする
バースデー誰も知らないロウソクの本数見るのは我ひとりのみ
バースデー何も変わらぬ日々だけど何か変わるよな期待する日々
....
ぼけの花愛でたい花や花びらが枝枝咲いて桃色匂う
乳白の花びら開き散る前に姿とどめよ木蓮の花
山吹の水仙を手にひそり立ちナルキッソスの水辺を映す
くちをぱくぱく
ぼくはおぼれてしまった
しこうよりもおもい ことばのうみで
ぼくのからだは みにくくふくれあがっている
だらだらと くちからこぼれることばを
えりわけられなくて
あ ....
今日も空は黙っている
通い慣れた散歩道
見飽きた変わらない風景
だから
ぼくもひとりただ黙って
歩く
今日も空は黙っている
喫茶店の木製テーブルは
相変わらず堅い
だから
....
おまえに名前をあげるのは
よしましょう
なぜって
わたしはおまえが
怖いから
生まれてきたことを
怒っているのか
それとも
悲しんでいるのか
口はもの言わぬけど
問いかけるような
....
僕の眼は秘密を覗く眼
姉さんが死んだ日
父さんが笑っているのを見た
空が高くて、太陽も笑っていた
陽の差し込む窓の下
死んだ姉さんが倒れた側で
青銅の柄のナイフもきらめいていた
....
僕は
溶けてしまおうかと思う
うすく藍色に染まりゆく空に
くっきりと影を濃くするビルの形に
電車の窓から
ほのかに浮かび上がる明かりに
我知らず笑んで
僕はまだ
人らしくあれた ....
○早起きして三首
朝早く起きてはお茶を飲みつつもひとりの食卓時計を見やる
まだ暗い明け方の光りを探してる夢に見た夜まぼろしのよう
日の出時味噌 ....
○秋去る歌五首
雲の間に光差し込み風が吹く秋の大空流れゆく雲
雨降りて赤に寂しさ黄に涙落葉の露ぬれた夕暮れ
赤紅葉気づいてみれば秋の色散り落ちる ....
私は鳥
もう空を飛べない
羽根をもがれて
ゴミ捨て場が臨終の地
腐臭しか知らず
地面のキズを数えて歩く
朝の光は冷たかった
でもわたしはとり
清掃車に潰れる私の肉体
飛び ....
○夏去る歌五首詠める
暦での夏が過ぎ去り蝉の声いのちを絞るこえ哀れこえ
陽光に差す日傘手にふと折りたたんでは陽の道歩く女(ひと)
夕暮れに水まく庭の静け ....
都心の高層建築形から落下
する風景を思い描いて
それをみる?
眠れない夜に壁
をじっとみつめて
眠らない夜の
ように
永眠?
超高速の
列車の先頭に乗っても
追いつけない
....
うつくしいものは、あなたの涙
うつくしいものは、あなたのくちびる
うつくしいものを知らずに、あなたは
地上を這い回る、あなたは
哀れでいとおしく
人はたくさくんの月や星や太陽を贈る
....
すべては満月の光で撮影された。
松林を戴く巨岩
水の流れ
滝
睡蓮
竹
巌(いわお)
水の流れ
渦巻
すべては満月の光で―――!
....
一瞬 一瞬 が
連続 して
動いて いる
呼吸(いき) を して
いる
血液 は
その 流れ を
止まない
心臓 は
規則 正しく
「時」 を
すり減らす
動い ....
駆け抜けよう
五月の新緑の中を
駆け抜けよう
あなたの中にダイブ
一瞬の
萌え立ち
揺らめく
五月の緑よ
あなたの中へダイブ
まわる裸足のステップ
流線を描く白い手
揺れるスカート
君の赤いスカート
純粋の赤
静寂の赤
孤高の赤
唯一の赤
まわるスカート
揺れるスカート
君の赤いスカート
世界がひっくり返る時とは
まるで
小さな針の痛みのようです
ぼくはその朝
君をなくしてしまいました
日めくりカレンダーを
破るみたいに
あっけなく
君は失われてしまいました
....
春
今年も季節が巡り
一年が過ぎ去ってゆく
白木蓮の花は散り落ち
私はまたひとつ歳をとる
地平に没する深紅の太陽
落日のはやさに
ひとり立ちつくす
春、 ....
右手のスティックで地球儀を叩き壊す
白い硝子の地球儀
粉々に砕けて、僕の指を傷つけた
左手でラジオのスイッチをいれてみる
{雑音=ノイズ}と衝突する人々の声
嗚呼、あれは
最後のファン ....
月をじっと見ていました
***
細い銀の格子に囲まれて
床はモザイク
天上には白い月の天体写真
四辺に青いクッションを敷き詰めて
お気に入りの羽根枕を左腕 ....
傘を持っていたけれど
わざと濡れて帰りました。
一片の隙間も残さずに
体中がぐっしょりと濡れて
重たくなりました。
見えていますか。
濡れるのはイヤじゃないって
自分に言い聞 ....
世界を手にとれない
小さな手
サミシサに
ひと粒の砂さえ
握りしめて離さない
さまよう私の
うつろう心の
冷たい手
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