木漏れ日を愛したひと
放課後の教室にいた
四時間目の途中から雨が降り始め
沈黙は細かく裂けて騒音になる
グラウンドは海のようになって
自分が十代の形をしている違和感を
いつまでも練り上 ....
からだは正直なのに
わたしはことばを
つかうせいでうまくいえない
声の高い低いで
感情を伝えられたら
もっと楽なのに
バスルームから走り出て
受話器を取り上げた
声を聞くだけで ....
落ちていくスピード
愛する気持ちは何ものからも自由だと
いっていたくせに(いっていたくせに)
重力にからめとられて
顔を上げたらそこにいて
手を伸ばしたら触れることが出来て
正しいことをしたときには
えらいねと言ってほしかったのです
水面に映る世界を眺めている
しかし
水面より下から眺めている
浅く緩やかな水の底から
O嬢は
東へ流れ行く雲を
光をさえぎる緑を
群生する植物の悪意を
水面越しに眺めている
時に ....
漂うものは言葉を奪い妄想は力を与えつづける
いつか手にするものを今日手に入れる必要などない
考えることを仕事にして仕事のことを考えないようにする
働きすぎるまじめな人が多いこの国で難儀なことだ
....
ことごとく幸せを逃す僕ゆえに
君のメールを削除できない
↓
選択の自由を行使するならば
あなたでなくてはならなくもない
↓
霙降る季節に君と共にした
朝食以来心失う
....
正体を隠すのではない
内側に隠れた正体を
暴くものとして
仮面を与えよう
すべて通り過ぎるもののあとで
後悔することのないように
うたかたの戯れとして
仮面を与えよう
時が満ちて時が下る
泣いたり笑ったりする間に
スカイツリーが完成して
僕は誕生日を迎える
見失うことを恐れて
見出すことが出来ない
ヘッドフォンから流れる音楽
目の前で見過ごしている ....
浴槽の中で優雅にはばたく
水も遠く音も遠くなって
光が円を描いて揺れるよ
わたしからあなたが離れるよ
まばたきの回数だけあなたを愛し
呼吸の頻度であなたを愛し
夜明けの数だけあなたを愛 ....
立ち止まるたびに空が遠のいていくので
足を踏み出すことは恐怖を忘れるための手段になる
夕焼けと夕闇とそのかなたにある月のない夜の闇を
決して追い越すことの出来ないグラデーションを追いかける
....
食材のヤギ
表面をキャラメリゼしていただく
贖罪のヤギ
全焼の供物としてささげる
アナザーと誰かが言ったので
人一人いない廊下でブラザーと返事する
愉しいことも一瞬だが
そも生きてい ....
まもなく海が終わるのだと
水銀灯のしたでアナウンスを聞き
気泡を次々と追いかけては
食われる魚たちが昇っていった
耳の後ろを押さえたまま歩く
小さな手のひらで痛みをかばいながら歩く
高 ....
並走するそれぞれの年齢のわたし
あるわたしは五月にひざをつき
あるわたしは夏にグールドを繰りかえし聴き
あるわたしは秋に同じ言葉にとらわれる
並走するそれぞれの年齢のわたし
あるわたしは ....
かなしみは背景を選ばずに訪れては去ってゆく
行き違う遠い君の記憶も波よりはやく消し去られて
時を刻む音と目に映すことの出来ない未来が
寒々しい部屋の闇に深さを増していくばかりだ
静かな夜の水面を
あてもなく滑ってゆくヒカリ
道はつねに複数あり
悲しみはいつも一つとは限らない
紙の上を走る深夜の孤独
どこへもたどり着かないはずはない
ただ今一筋の光を見れば
も ....
雨が強くなり
森が海に呑まれる
木々の繊維が悲鳴をあげ
窓枠がかすかに共振する
死に向かう命の塊を
やはらかに包んで緑は
夜闇の中で黒と見分けがつかぬ
音がなくなれば沈黙は意味を失く ....
花に
しづかに
雨に
くちびる
くちずさんだ歌
だれの歌だったか
だれと歩いていたか
思い出すまでのためらい
地を這うもの
足掻くもの
道を拓くもの
清涼な山の息吹の ....
波がことばをもぎとっていく
三週間と三日 高熱が続いた
ロビンソン・クルーソオはふと
自分が黒人になって巨石文明の
栄えたアフリカの奥地で
平和に暮らしていたのではないかと
確信を得る
....
かなしみの果て
絶望のふち
そういう言葉は力を持たぬまま
波間を漂う海藻の切れ端
近くなればなるほど恐怖は
足元から冷気のように立ち
悔し紛れに吐いた言葉の中で
今逃れられぬものと対 ....
輪郭は崩れながら鋭敏さを取り戻していく
遥遠として未来くらい手触りがなく
僕の向こう側で僕の知らない自分を噛み砕いて
ただ読むことも出来ない活字の内側に
足跡を残しては消していく
c ....
花は土地から切り離されると
すこしずつ死んでいく
生まれた土地から切り離されて
まず工場へ送り出される
仕分ける熟練した腕が
花をつかみ花を矯め
生まれた土地から切り離されて
箱詰め ....
夏の残響はセロファンのむこうで
けたたましい音をたてる 鬣を震わせて
道々の声や言葉と重なり合う天気記号が
すっと屹立する給水塔の直下 君の真上
指先にしろくどこまでも絵の具を伸ばし
長 ....
かなしいことはするすると
てのひらをとおりぬけていけばいい
みなとまでもうすこしあとすこし
きもちのはれるすきまをさがしてる
気負いを目に浮かべて立ち上がり
停車する電車のドアの前で
....
さらに小さくふるえる水面
うちとけることのない二つの世界が
原子核よりわずかに軽い約束を
かわしたのは冷たい雨の日
もの思うようになってはじめて
自然と流れる涙の熱さを知る
大人はもっ ....
ちいさな波の数を数えられないように
あなたの涙はたぶんすくわれない
それでもよいなら泣いてください
話を聞くことくらいしか出来ませんが
背の高い白樺の森を抜けて
寒々しい冬の空にあなたと ....
街角ごとに違う風が吹いている
蜃気楼の街灯をぼうっとひらめかせて
サーカスが来るまでに子供たちはベッドへ
サーカスが来るまでは子供たちもベッドへ
どこからたどり着いたのか知らないが
気が ....
夜の骨格
白く品性を保った
孤独
孤立とは
アイソレイションとは
ただ向かい合うために
悲しみが訪れるのであれば
僕も君も壊れた宇宙の
円盤で
いつまでも
ロンドを踊っている
....
つぶさに観察する 肌のふるえは
ワーグナーの夕暮 悲しいと口にせず
夜の海の不気味さ 重なっている
しのびよる闇に無限の波
新しい歌などどこにもない
はじめからあるものしかない
たぐり ....
雨が降りルーブルへ向かう足元を濡らす
とどまれないと二本の足が示すように
何事も今斥力ではじかれていく心のように
地下鉄から吐き出される人
肩を寄せ合って唇を吸う二人
一人冷たい空気 ....
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