昼下がり、一人の子供が道端で待っている。
何を、というのではない。ただ当てもなく待っているのだ。
小さな眉をかすかにひそめ、人通りの絶えた路地を眺めている。
年に似合わぬ気配が、傷ひとつない ....
真夜中を
僕たちは泳いだ
振り返りながら
ぼやけた光じみた
明るいほうへ泳いだ
夜露の降りたガラスに
僕たちは映らない
もう考えるのはよそう
何であってもいい
誰でなくてもい ....
ピアス開け笑った君は震えてた 胎児が眠るような右耳
何もない空き地は少しそっとして テレビの声が虫の音のよう
迷うたび「答えはない」と人は言う わずかに強く握る吊革
バスは砂の街を過ぎた。
撒き上がる砂埃に、窓の外側がざらついている。広い道路が先細って、地平線へ続くのが見える。
小さな土煉瓦の集落が、前に現れる。薄汚れた数頭の羊が、崩れ落ちた土壁に囲まれ、 ....
じゃあ、と言って立ちあがった。帰りがけに後ろで、短く息を吸う音がした。そういう癖があることを、わたしは知っている。ずっと前から。もうひとこと言おうとして、何も言えないのだ。
それに気付いて、振り ....
知らない場所へ行こうと
冬の海への切符を買った
隣の席は空いたままだ
いるはずのない君を思う
病気は今も治らない
相変わらず普通にしてる
でも痺れている指先が
なぜか痛む ....
かげおくり 思い出とおく 杉の上
真四角の 枠を飛び出し 青クレヨン
花は散り 果実は重く 苦くなり
蛍光灯 涙 ため息 白くけぶる
なにもないから星みてあるく
落ちる葉の 鋭い線を 流し見る
風ふいて 転がる葉音 耳すます
空白に 行くところなく 影ゆれる 空はいよいよ 青くなりゆく
数か月を一緒に過ごした季節が、けさ帰ったようだ。
挨拶はできなかったが、夜中から荷造りをする音が聞こえていた。
せめて手紙でも置いて行けばいいものを。
寝転がったまま薄目を開けてみると、 ....
微風が髪を流し
湖面を波立てる
(ほのかな水のにおい)
揺れる草の残像を
午後の残り火が彩る
(影、深まる濃紺)
誰に向けた言葉もなく
夜の静けさを待つ
(しるしに満ちた沈 ....
Colors of the autumn leaves
Are now changing little by little.
There flash burning red, joyful yel ....
誰もが眠っている
それでも朝顔は咲く
日が昇るよりも早く
花火よりも明るく
夏空よりも青く
どこかで朝焼けを待つ
心やすまらぬ人たちのため
朝顔が咲く
雨がふる 傘はないから 濡れている まつげの雫 ぼんやり光る
熱い とひとり言うのも飽きて
熱いねえ って呼びかけてみた
誰もいないのだけれど
そうしたらその声は
出しっぱなしのストーブに こだま したよ
金属質の涼しげな音で
冬の熱はとっくにさめき ....
暗くなる部屋
冷たくなった風が吹き込み
レースのカーテンが揺れた
僕は床の冷たい場所を探し 寝返りを打つ
遠くの雷のように 飛行機の音が響いている
今日はもう外へは出ないだろう
夕食の匂い ....
ごろごろと 枯れ葉の下に だんごむし 見下す人を 知ってか知らずか
画面の奥には配線があり
そこに人はいない
温もりは血ではなく電気で
おうとつのない平面は
何も言わない
いらいらすることもなく
にらみつけもしない
でもそこには真心がない
無数の言葉と ....
射しこむ陽が壁に{ルビ日向=ひなた}を作り
そっと今を忘れるとき、想うのは
別れ際のプレゼント、忘れられた約束
または、これから出会う誰かのこと
晴れた日は
ひとりでいると少しくるしい
....
東北ではとっくに
初雪が降ったそうだ
私は今日も命を無駄にして
偶然に生きている
また会おうね
そう言って会えなくなったのは
もうずっと前のことで
いつか忘れてしまうだろう
日付だ ....
時に陽光の眩しさに
時に雑踏の中ひとり
愕然として立ち止まる
背中を押され
肩を弾かれ
何処にいるのか わからなくなる
どこかへ散ってゆく人の
波の中 俺は何処へ行くのだろう
....
冷える朝 皿を洗って 湯気昇る
名も知らぬ 虫の{ルビ薄羽=うすば}が 透きとおる
落陽の 焔が燃える 西の窓
風に舞う 死んだ他人と ちり紙と
たいふうは過ぎ
ふふふとわらう
木々はゆらゆら
葉をふりみだし
子供はかけてく
髪ふりみだし
あとにはふうっとため息と
きんもくせいのかおりがふわり
洗ったばかりの長そでシャツは
....
あおとあかと たまにきいろと
あとはいらない
たいくつと思ったことはない
ただ
まいにち日が暮れかかって
あかりがぽつぽつともる
これはうつくしい
じっとまえ見て 風に吹かれて
雨 ....
うつろな午後
昼食を終え
同じような犯罪を
同じように報道するワイドショーを消し
読んでしまった新聞を 畳みなおす
新陳代謝のように続く 不要な情報のループ
その繰り返しの外
離れた ....
平行に並ぶ名もなき ひとびと
ひだまりに眠る消火器のように
ここはとても静かだ
行きつ戻りつする僕を
そう眺めないでくれ
悪気はないから 嫌わないでほしい
見渡す限りの名もなき ....
空は遥か遠くまで透き通って
あの日よりもずっと現実的です
立ち並ぶ家や 生い茂る緑が
白い光を乱反射しています
眩しいけれど
それでも空を見上げたままでいます
あすこにいる野良猫も ....
もう描きたくないと
イーゼルを蹴って君は出て行った
僕は君の絵がいつも好きだったのに
君は前に言った
キャンバスはこのまま
これ以上にはならないと
絵筆を持ったままで
白 ....
引く波に 吸いこまれては 遠ざかり 二度と還らぬ 十月の海
あてなくて 青に染まりし {ルビ我=わ}は一人 この灰の街 よるべはありや
去る今日と 明日の隙間を 彷徨いて ....
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