若い乙女に恋すれば
男のタイは 綻びる
爪は綺麗に磨かれて
白いやえばを覘かせる
声は奇妙に低くなり、
重なる嘘の言葉から
ときどきは
「本当」の文字がほの見える。
....
白いかがやき!
光のなかで 男は
悲しみに暮れる。
薔薇はまっすぐに
男へ 伸びる。
救いの手!
その茎には棘がある、
まるで女の指のよう。
天空に 咲き誇る ....
黄色い街の夕刻を
雨が飾りのように降り出した
人はみな 気付くまい
この少女の頸の宝石に。
若い男は髪ばかり
中年男は 胸と脚、
年増の女は 一瞥くれて
皮肉をたれる。
....
楽しいことを探しあぐねて
やって来た、男と 女
噴水広場で鉢合わす。
何ということなし、
口もきかずに
ふたりの
鳩は
飛び去った・・・・・・。
宿命に、付き従おう
奴らと違う言葉の洪水
さも苦しげな木葉の{ルビ一群=ひとむれ}
秋、
情熱が去って
憂鬱がおとずれた。
灰色に淀んだ少年の目に、
おまえと、おまえ ....
忘れてはいけない
詩と空想が生活を救い
貧困が雪解けを待つたのしみに変わること
おまえは知るだろう、
やがて現実がひとつの虚構として
おまえの空想のまえに立ちはだかるときに ....
路地裏の地下の居酒屋の
脚の腐った肱掛椅子よ
アルコオルの飲みすぎだ、気をつけろ
{ルビ主=あるじ}みたいになっちまう
禿げたあたまは僧侶のようだが
畢竟やっぱり女った ....
あんまりおまえが焦がれたから
帰ってきたよ、
あのひとが・・・。
丘のむこうで、うごめいている
あの白い花は、
おまえじゃないかい?
あるひとが
ほら、
おし ....
さらば
ぼくのこいびと、
ゆううつよ・・・
おまえのおかげで、
ぼくの{ルビよきひと=・・・・}は
いつもほしのように
かがやいていた・・・
けれど、
あたらしい太陽 ....
なにゆゑの 朝かゆふべか
日に問へば
我も知らずと 青空の午後
愛という字の、{ルビ憂=うれい}に似るは、
インクのにじんだせいかしら。
それとも、酒のせいかしら。
ビリイホリデの声聴いて、
今日は少し、酔ったのかしら。
今日 ....
赤く燃えたのは、炎。
あおくひかるのは、ブリッヂ。
橋のうえにたたずんで、
ひたすら、朝を待ちたい。
朝は、ありやけ。
じっと目を閉じて、
ありやけの空 ....
春、過ぎて、
夏、来ぬ。
夜、老いて、
昼、盛りぬ。
雨、ほそぼそと、
胸をよぎる。
泣け!
しづかに泣け。
しめやかに泣け。
それから、
....
黒い喪服を身にまとい、
満員列車が{ルビ都会=マチ}を出る。
{ルビ都会=マチ}の駅では群集が、
ただうつむいて、過ぎてゆく。
毎日、毎日、
誰かが、溺れて、死ん ....
きみどりいろの 透明の
液が管から 流れ落ち、
ほっそり蒼い この腕に
ゆっくり しずかに 冷やかに、
しみては 消え、
しみては 消え、
一滴、 一滴、
私の目 ....
追憶は、僕を無智にさせた。
僕はただ、頬杖ついて、
阿呆のように 遠くを見つめていた。
むかしのむなしい思い出にしがみつきながら、
ひとりで部屋にいすわっていた。
窓のとおく ....
優しい夜が僕を包んだとき、
僕は思わずうたたねをしてしまった。
うたたねをすることを
神はきびしく禁じていた。
眠ってはいけない。
眠ってはいけない。
優しい夜は、 ....
陽の光がこの世界に顔を出したとき、
僕は思わず、目を覆った。
太陽は嘘をついた。
太陽は嘘をついた。
僕は太陽につばをはいた。
僕は太陽に嫌われた。
....
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