海豚の背に乗つてゐるのはありやなんだ
海豚を視姦せよと神の啓示
冬の虹途切れ途切れの殺意かな
理知的なナマコの眼が選り好みしてゐる
象牙欲しいなと子どもがねだり ....
路地裏を抜けるとそこは黄昏の国
鮭の半身が海へ帰りたがつてゐる
今しがた刺身が自殺したと云ふ
亀を何匹積まれても此処は売らん
傷痕に潜むバクテリアいちや ....
シャボン玉割れたら春がきた
春を運ぶ春日通は空いてゐる
春まみれのスナフキンがやつてきた
春と云ふ字を書けないでゐる風の子
道を渡るとそこは春であつた
....
咳ひとつ腸捻転の賑はひかな
仏壇の裏にはまた仏壇がある
墓地の裏にあるキャバクラへ行く
元囲碁部の男は突然雨の中走り出しては女の名叫ぶ
灯台できみと暮らしたいと伝へたがよりよい返事もらへず笑ふ
資本家とお食事しては思ひ出すプロレタリアートつて何だつけ?
尻に ....
バリケード築いた後の高揚感敵は政府に非ず我が子だけど
風船もまともにふくらませずにゐる僕に愛想つかして妻子はディズニーランドへ行つた
おねしよと云ふ言葉に魅入られたる三十五の男闇を識る
傍らのジム・ビーム・ライの空瓶がしみじみ語る故郷の風を
ともだちはほとんどゐないときみは云ふ莓でも食べて海へ行かうか
....
子殺しと云ふ言葉ふと浮かぶとき毛穴に潜む蟲らざわめく
大人には理解できない儀式ありみどり児だけの秘密の記号
浴槽におもちやのあひる三羽いて子供とともに茹であがつてゐる
わが妻の命令口調なメモ書きがそこら中でまぶしく光る
みどり児と束の間耽るE.T.のごつこ遊びは色鮮やかで
苦虫を噛み潰した顔の猫がゐてもうこんな家出ていくと云ふ
肩を抱く敗残兵の胸に棲むあの雲雀は屍になつた
冬の朝数学者の見た夢は水洗トイレの水とともに消える
八時九時十時になつても帰らない我が家の猫は時計を持たぬ
壊されたサドルに跨り坂下る秋晴れの下死相が出てゐる
カーテンの陰に隠れたゴブリンを一度見たと云ふのんきな妹
口の中飴転がしては運命の出会ひを望むチェルシーの男
また定期失くしてしまひドヤされる月光の下ウィスキー苦し
梨売りの声聞き取れず問ひかける「これは二十世紀ですか?」「ここは二十一世紀です」
このまちのアンテナどもはみな同じ方向向いて笑つてゐるよ
冬の空病んだ蜥蜴に話しかける
体育の日体育に縁の無い僕がゐる
金魚の子いつの間にやらいなくなる
パソコンがまた固まつた梅雨のせい
唐辛子外に干したら陽に ....
腹黒いきみは夏がキライだろ?
もうなんだかわからなくなつて青汁飲む
落武者の同居人がキレて凄む
だりあダリア眼に突き刺さる冬の朝
炭酸の泡が逃げ出す冬の朝
妻が去り冷めたメザシを齧つてゐる
黒猫よ冷めたメザシに見向きもせず
オヤ メザシ、あんたも影が無いのかい?
メザシの子海に返さうと四苦八苦
賛美歌の歌詞知らぬ我に光さす
バイク乗る男の肩に蟷螂が
車掌のズボンは真つ赤で水玉だ
揺りかご揺らす右手に皺は無い
けものみちちよつとけものになりたくて通ひ詰めたら娘ができた
わたくしの存在価値はなんだらう取れた銀歯に問ひかけてみる
カンパリの赤は太陽の色素だよと云ひし友はカンパリ嫌ひ
八月の身体の火照りを感じつつ抑へきれない皮膚の爛れよ
月光のアナスタシアよ薔薇園でかくれんぼする亡霊ペンギン
溜め池に子どもが落ちたと連絡あり草いきれの真夏の夢よ
果樹園 ....
生き埋めにされた兄が云ふこの世はハッピー ハッピーマンデー マネーマネー
さりげなく倒れてゐるそこの男に春の長雨くれてやらう
台風接近のニュース聞きながら二十世紀剥く皮の渦よ
今月のソープオペラ楽しみにハヤシライスの鍋かき混ぜる
道の向かうからトボけた顔の男現れて胡散臭ひ奴めと花火投げつけられる
プランテーションの無意味さ知るや否や彼は農園に火を放つた
....
月面に跳んで行きたい僕だけど決して現實逃避ぢやないんだよ
窓際に佇んでゐる猫がゐる月を見てゐるのか月に見られてゐるのか
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