まだ雨が降る世界だし まだ一つずつ壊れうる個体があるし
私という何かしらがある幻想を維持するために昼飯を食う
しかしその血を数分間止めたなら復元不可能になるデータだ
言葉という街の埃に似たものが降り積もりある日私になった
どのへんを爪で剥がせばいいのだろう 視界ではない世界が見たい
どこまでもここから遠い身体に比喩として手をさしのべている
身体があなたとわたしを絶対に隔ててむかいあわせてくれる
笑うしかないほど解りあえないが人がいるとはそういうことだ
霧さえも見えていないということを互いに指摘しあって笑う
そう、ちょうどリモートでつながりながら誰も外には出られない部屋
一通り娯楽は揃った四畳半のような脳に住み慣れている
今ひとつ使い勝手のわからない脳だと私の脳は言います
この肉塊、まあね、そう言うお前らもさらなるその一部分なんだが
また突然砂漠の画像を映し出しメモリを浪費している脳だ
生むことは酷なことだがやむを得ぬことでもあろう 星が流れる
たくさんの動き続けるものを見て、人でなくてもいいと思った
今日もまた誰かが人を産み、そして迷路は狭く広くなるのだ
物質であって私であることをわれわれはまだうまく言えない
脳内を流れやまないこれもまた物質ではあるのだろうけれど
肉体の数だけ私が絶対に行くことのできない場所がある
今日死んだ蜉蝣の数 あなたしか知らない言葉の消えてゆく数
どれだけの独自言語が死んだのでこうして笑いあえているのか
同じ青など見たこともないのだが空が青いと言えば通じた
極薄の袋につめてもう少しあたたかくなくなるまで待とう
肉体を脱ぎたいのだがあいにくと私が外側にいるもので
これまでに触れたすべてのものよりも指先こそが遠かったのだ
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